2017年11月28日
第162回 「鍋阿間井戸」

まだやってんのかよ~っと罵声を浴びてもおかしくないくらい、しつこく続いている井戸にまつわる石碑シリーズです。今回は上野は野原の千代田のナベアマ原にある「鍋阿間井戸」です。もう遠慮せずに今回もバンバン地名を連呼してゆきたいと思います。地名地形地図に弱い方は、SAN値のコントロールをお忘れなく。
碑文には
『鍋阿間井戸 昭和四年十一月設立』
と描かれている、とてもシンプルなモノ。そんな逸品なだけに、詳細についてはまったく判りません。
井戸は県道190号平良新里線の南側、耕地整理によって綺麗に区画された畑の中に、ほつんと残された茂みのナベアマ御嶽の向かい側の畑の中にあります。畑の面からはやや下がった位置にあり、降り井戸のようなイメージを感じさせますが、耕地整理された畑の地盤が高いだけかもしれません(昭和の設立であることと、後述の理由から否定)。
ナベアマの集落はおおむね千代田カントリークラブと千代田ハイツ(新興住宅地)にはさまれた、県道190号沿いに広がっている区域で、畑の中に家屋が点在する閑散とした集落です。
県道の北側には狩俣から移住してきたといわれている根間家の一族を中心とした家々が数軒あり、本家筋にあたるお宅の裏手には「根間家の御嶽」と呼ばれる個人系の御嶽が今もあり、一族が参詣しているのだそうです。
このナベアマの語源についてははっきりしませんが、集落がある付近の地名は「ナベアマ原」で、「ナベアマ」と呼ばれている場所は集落の南方にあり、かつての陸軍中飛行場戦闘指揮所(戦跡)があった山のあたりを呼びます(小字)。そのことからおそらく語源は「鍋山」なのではないかと、勝手に邪推しています。ちょうど戦闘指揮所の山を集落のあたりから眺めると、どことなく鍋をひっくり返したような印象が感じなくもありません。
戦闘指揮所があったことでもお判りいただけるように、戦時中はこのナベアマ界隈は陸軍の中飛行場として、強制接収されていました。飛行場の位置を現在の地図に重ねてみるると、鍋阿間井戸は滑走路の中にあったことになっているので、飛行機を飛ばす時は井戸に蓋でもしていたのでしょうか。当時の利用方法が気になります。
最後はオープニングの地名のおさらいをしておきましょう。
『上野は野原の千代田のナベアマ原にある「鍋阿間井戸」です。』
最初の「上野」は住所的に書くと宮古島市大字上野の「上野」の部分。
これは旧宮古郡上野村と同義語なので、本来は宮古島市に合併して消えてしまう名称なのだど、旧市町村名を残したいという思いから継続使用されている地名。ある意味、地区区分として活用できるので便利ではあるのですけれど、住所の字面が奇妙なことになったり、とてつもなく長い表記になるので、個人的にはちょっと嫌(大字上野字上野や大字伊良部字伊良部、大字平良字東仲宗根添など)。
続いて「野原」。
ここは上野村時代の本来の大字で、郵便番号(ZIPコード)に指定されているレベルの区分なので、(中)字に相当するけれど、慣例的このレベルを大字と呼んでいることが多いようです。
次は「千代田」です。
宮古島市の区分では行政集落とか行政区と呼ぶ呼称になります。この区域には市政の円滑な運営のために、市の事務の一部を委託された行政連絡員と云う地域の人たちがいます(広報の配布などをしているらしい)。住所的な大枠では野原の字の一部になりますが、上野村が誕生する以前、下地村の時代に野原から分離している地域になります(宮国の大嶺と同時期の1893年/明治26年に分離しました。尚、下地村から上野村が分村したのは1948年/昭和23年のこと)。
そして最後の「ナベアマ原」。一番小さな区割りの小字です(厳密にはさらにこの下に、集落よっては“区”や、さらには“班”などがあり、さらに細かく区割りすることが可能だったりもしますが、ここまでくるともう住所とは呼べないので、集落を知るものでもない限り把握もしきれないので、今回は触れないでおきますが、以前、取り上げた野原の井戸はさる組の区域にあるものでした)。
【県道沿いに今も残る、千代田部落の旧ナベアマ公民館。1963年頃、住民の出資によって建設された。現在は払い下げられて、個人所有の倉庫となっている】
明治の特別町村制(1908年)が施行される以前、いわゆる番所システムのころは、砂川間切の野原村でした。そこから宮古郡下地村、戦後すぐに分村して宮古郡上野村に。そして2005年に5市町村が合併して宮古島市字上野と移り変わって行きますが、二度の村落デノミが行われた上に千代田としての分割など複雑に推移していることが、理解の難しさに拍車をかけていると思います。でも、そこがマニアとしてはなかなかに楽しい部分だったりするのです。
Posted by atalas at 12:00│Comments(0)
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