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2016年11月11日

14冊目 「佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡」

14冊目 「佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡」

文化の秋、11月です。先月末の沖縄は、5年に一度の「世界のウチナーンチュ大会」に涌いていましたね。参加された方もいたでしょうか。沖縄県は日本の中でもとりわけ海外移民の多かった地域です。多くの沖縄県人が、戦前戦後を通じてハワイや南米などに出稼ぎに渡りました。
14冊目 「佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡」
今回紹介する本は、『佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡(赤銅色のカシレーリヤカンパニー)』です。宮古島の隣の伊良部島・佐良浜の鰹漁の歴史についての本です。戦前から、宮古からも鰹業による南方地域への移民がありました。

14冊目 「佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡」今でこそ、宮古島の鰹は有名ですが、もとは1906(明治39)年に鹿児島と宮崎の漁師を雇って狩俣や池間で始まったそうです。その後、地元で定着し日本の他県をしのぐ発展を遂げます。それは特に追込漁による餌取りの技術に長けていたからです。1914(大正3)年に第一次世界大戦が起こりますが、そういった国際情勢や南進政策の流れに押され、島での生活苦を乗り越えるべく佐良浜からも南洋移民が増えていきました。漁師である男達だけでなく、女も現地の工場などで働く女工として海を渡りました。
第二次世界大戦において、佐良浜漁民たちが苦労の末生活を築いた南洋地域は激戦地となります。多くの漁民が戦死しています。本書には、戦死した人も含め、それぞれの時代の各船の名前、その船に乗った人々の名前が詳細に記録されています。そのひとりひとりの生涯が胸に迫ります。

戦後、沖縄はアメリカ統治下を経て日本復帰を果たしますが、激動の時代にも南方鰹漁は遠洋漁業として続きます。冬になると島では、住民全員が出港する船を見送り、船は漁港すれすれを旋回しながらウハルズ神社に大漁祈願と航海安全を祈って南方へ旅立っていったそうです。そして10ヶ月後に島に戻り、また2ヶ月後には島を離れるのです。
本書の中には、1980年に行われた、16人のソロモン漁師を招いての「南方からお帰りの皆さんと村長のつどい」の様子も紹介されています。そこでは、ソロモン漁師たちが何の違和感もなく佐良浜方言で会話していたそうです。
鰹を追った漁師達には、語れないほどの人間ドラマが在ったと思う。
島で鰹を追った男達。南方へ望愁の念で鰹を追った男達。屈強な彼らが、何を思い、何のために鰹と戦ったのか、生活か、さだめか、ロマンか、ただ誰も辛さを口にしなかった。
それが海の男の歴史か、誇りか、意地か、守るべき家族か、それとも佐良浜の血のなせる業か。
ソロモン、バラオ、ボルネオ等、激戦で悼むべき島々だが、郷愁に似た愛着を覚える。(本書「はじめに」より)
2009年には、先人の苦労に感謝を込め次世代に受け継ぎ継承することを目的に「佐良浜かつお百年祭」が行われました。また、ATALASネットワークでは、平成26年に著者の仲間明典さんを招いて、本書をテーマに市民講座を行いました。そして今年8月には、現在佐良浜にのみ残る伝統のアギャー漁を撮った写真家・中村征夫さんを招いたイベントが伊良部島で行われました(主催:株式会社プラネット・フォー/共催:伊良部島漁業協同組合/後援:ATALASネットワーク) アギャー漁を知るには、写真集『遥かなるグルクン』もおすすめです。
こうして宮古島で、宮古の海人(インシャー)の歴史が次世代に伝え継がれていくことに感動します。仲間さんも本の中で「子や孫たちよ、誇りを知れ。」と仰っており、ご自身も「佐良浜に生まれたことに喜びと誇りが持てた」と書かれています。宮古島ではよく“誇り高き池間民族”(※池間民族とは、池間島と池間にルーツを持つ西原、佐良浜の人々)と言いますが、まさにその偉大な軌跡が記された名著です。
14冊目 「佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡」

[書籍データ]
佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡(赤銅色のカシレーリヤカンパニー)
著者 :仲間明典
発行 :宮古島市地域おこし研究所
発行日 : 2012/10/08

【関連情報】
現在、沖縄県公文書館では、所蔵資料展「土地と移民」を開催中です。
[会期]2016年10月25日(火)~2017年5月7日(日)
[時間]午前9時~午後5時
[場所]沖縄県公文書館 閲覧展示棟1F展示室
[休館]月曜日・祝日・年末年始(12/29~1/3)
http://www.archives.pref.okinawa.jp/publication/2017/04/1025.html

また、沖縄県公文書館が主催する古い写真などを展示する移動展が行われます。

沖縄県公文書館 伊良部島移動展
[会期]2016年11月25日(金)~27日(日)
[場所]伊良部公民館
伊良部島で初の移動展。地域と関係する所蔵資料を紹介します。
http://www.archives.pref.okinawa.jp/exhibition/2016/05/28.html


【ATALAS関連コラム】
宮古かいまいくいまいシーズン2
其の3 六本木のモテ男が漁師になった! ヒサオさんの遥かなるグルクン



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Posted by atalas at 12:00│Comments(4)島の本棚
この記事へのコメント
はじめまして、突然ですみません、この本(佐良浜漁師達の南方鰹漁の軌跡)はどこで入手できますか?
Posted by 久貝幸子 at 2021年05月11日 12:39
この本は、仲間明典さんご本人がお持ちでしたが、
現在は分かりません。
ただ、当方はずっとお会いしていないので、
直接、問い合わせてみてください。
Posted by 片岡慎泰 at 2021年05月11日 13:40
ありがとうございます。助かりました。
Posted by 久貝幸子 at 2021年05月11日 15:19
「江戸之切子」さんと連絡とれました。
宮国優子さんが亡くなって、なかなか相互の連絡が難しくなっております。私はアホなので、それ以前に問題ありですが。

お探しの本で確実にある場所は、
法政大学沖縄文化研究所です。
Posted by 片岡慎泰 at 2021年05月11日 22:54
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