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2015年10月23日

その6 大野山林いきもの先生

その6 大野山林いきもの先生

大野山林は、宮古島最大かつ唯一の森だ。面積は119ヘクタールほどだが、森林率16パーセントの宮古島にあっては、とても貴重な森なのだ。
アカギやタブノキの梢にサンコウチョウやアカショウビンが羽を休め、クワズイモの大きな葉を揺らしてオオクイナが顔を出す。シダの陰にじっとたたずむ影はキシノウエノトカゲかミヤコヒキガエルか。ガジュマルの長く伸びた気根の間を、オオゴマダラがふわりと漂う。日暮れともなると、不意を打つようにオオコウモリが頭上を横切り、コノハズクとアオバズクも盛大に合唱を始める。運が良ければ、一年中ホタルにも出会える。
文字通り、「いきものたちがひしめく」この亜熱帯の小さな森で、一番大きな哺乳類は、多分まちがいなく、オカ先生だ。

やんばるや西表の自然と比べたら、一見ちっぽけかもしれない
でも、ここには手の届く範囲に何でもある
深い森じゃないからこそ面白い。ハブもいないしね


その6 大野山林いきもの先生長年、宮古島の高校で化学を(生物ではない)教えてきたオカ先生だが、その経歴はちょっと変わっている。教師になる前は、那覇でタクシーの運転手をしていたこともあるという。
「先生になる気はなかったけれど、長い夏休みがとれることが魅力で」大学へ戻り、教職を取った。いきものを見に行く旅ができると思ったそうだ。実際、やんばるや八重山の島々はもちろん、本州の方々にも出かけて行った。いきもの旅の三昧を続け、落ち着いた場所が大野山林だったという。
西表のジャングルで命を懸けた大冒険をしなくとも、大野山林ののんきな自然の中で、会いたいいきものたちのほとんどを至近距離で見ることができるのだ。こんな場所は滅多にないとオカ先生はいう。

一日のほとんどを大野山林で過ごしているであろうオカ先生は、どこでどんないきものが今、何をしているかをも知り尽くす。
「ほら、今、セミが鳴いてるでしょ?あれはオスが気に入ったメスに近づいて一生懸命気をひこうとしているんです。あ、メスが逃げた」

森にはオトコとオンナのドラマがあって
オトナとコドモのものがたりがあるんです
ぼくは、いきものたちに恋愛の仕方を教わった(笑)


オカ先生は、化学式を読み上げるような口調で、森のオトコとオンナの生き様を語る。
対象は、植物であったり昆虫であったり鳥であったりカエルであったりするのだが、ときに壮絶でときに愛すべきその生態は、ヒトのサガの本質に通じる。そうだ、恋も子育ても、知りたいことはみんなここにある。と、オカ先生と森を歩けば、なんだかそんな気がしてくるのだ。

さわったら毛がある。ない。うろこがある。暖かい。冷たい
こどもたちには、いきものや自然を身体で感じてほしい
そんな体験は、後になって必ず生きてくるから


その6 大野山林いきもの先生オカ先生は、宮古のこどもたちには、自然を体験する環境がほとんどないと嘆く。つまり、いきもの好きになるきっかけもない。だからこそ、そのための場づくりが自分の使命だと感じている。自然クラブを作ったのもそのためだ。こどもたちとオカ先生は、あくまで対等な仲間だ。オカ先生は、けして押し付けることはしない。コドモという『いきもの』を、大野山林に解放し、身体の底からわきあがる興味や喜びをじっと待つ。自分の存在は、求められたときに、必要な手助けをする頼りになるオトナであれば十分だと考えるのだ。

唯一の場所が、行政によってどんどん作り変えられる
内部に自然を知る人もいない
やるせないけれど、その立場を否定もできない


その6 大野山林いきもの先生オカ先生が、時折見せる静かな怒りがある。行政の『善かれ』が唯一無二の場所の姿を変えてしまう。本来あるべきではない樹木の植林。一部の団体のための排他的スペースの設定。そんな話題に触れるとき、オカ先生は、何かを待つように少し間を置き、とつ、とつと言葉を紡ぐ。「行政の内部に、自然やいきものについて詳しい人がいればいいんですが」
行政には提言もするが、反映されることは少ないと、抑えきれない悔しさがこぼれる。

最近、オカ先生は大野山林に隣接した農園を手に入れた。そこはオカ・ファミリーである山羊、カメ、ヘビ、烏骨鶏、カエルたちの棲家になり、こどもたちがいきものに直接さわれる場にもなる。大野山林への玄関口として、どんな可能性があるか、目下構想中である。

《第四金曜担当》 きくちえつこ
池間島在住、足かけ 4 年のナイチャー。
宮古で出逢った「かいまい くいまい」から聞いた、ちょっと「へえ~っ!」となる話を、ゆる~ゆる~っとご紹介。
考察も、オチも、ありません。ごめんなさい・・・。

『かいまい くいまい』 = 「あの人やら、この人やら」

宮古島 ひとときさんぽ



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