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2017年04月14日

19冊目 「水の盛装」

19冊目 「水の盛装」

東京は桜満開の4月です。新年度、新生活に胸躍る春ですね。そして4月の宮古島はトライアスロン大会が開催されます。
今月ご紹介する本は、大城立裕著『水の盛装』。宮古島トライアスロンがモチーフのひとつとなっている小説です。
19冊目 「水の盛装」
池間島に生まれた浜中千寿は、東京で写真を学んだ後島に戻り、東京の私立大学助教授で水中動物学専門の鳴海久志郎の撮影助手をしています。この二人は結婚間近の恋人同士、つまり鳴海はいわゆる“ナイチャー婿”状態で、千寿の実家の離れの小屋に寝泊まりして珊瑚の研究をしています。そして、鳴海は毎年宮古島トライアスロンに参加しています。
一方、千寿はある日幻影や幻聴を感じるようになり、また島のおばぁからカンカカリャになれと告げられます。そして、遭難事故、八重干瀬、サシバ伝説、通り池、白化珊瑚、フナクスの堀削工事・・・宮古島をめぐる数々の混乱の中、自らが乳癌であることがわかります。
千寿は、現役カンカカリャのヨネや、掟を破って島外へ出たツカサンマの愛子から様々なことを言われ、自らの業と向き合わざるを得なくなります。印象的なのは、自身の仕事である写真について、(不吉なことが起こるのは)「レンズという科学の産物を霊魂につなごうとしたからではないか」「カメラで他人の運命を見ようとしたからだ」と考えるところです。鳴海は逆に「海には二つのことが秘められている」と言って、科学と芸術、精神と肉体を共に組み写真として表現しようと提案します。

著者の大城立裕さんは、言わずと知れた沖縄文学の大家です。1925年沖縄中城村生まれ、戦時中に上海の大学(編注:東亜同文書院大学)に入学しますが敗戦後に沖縄へ戻ります。そして1967年に『カクテルパーティー』で沖縄初の芥川賞作家になりました。大城さんは、戦争や基地問題など沖縄の社会派小説を書くイメージですが、なぜ本作では宮古島のカンカカリャやトライアスロンを題材に選んだのでしょう。
本人曰く、当初は戦中戦後世代の“沖縄の私小説”として戯曲や小説を書き始め、両義性というテーマや全方位志向に向かっていったそうです。それはまさに、皇民化教育から敗戦、アメリカ統治、祖国復帰運動という時代を生きた大城さん自身の実存に関わる問題だったことがわかります。特に般若心経と出会い、一切は空であるとの真理に至りこう言います。

私としては、二十歳までに仕入れた世界観が無に帰したからといって、嘆くには当たらない、と教えられました。その後60年間、沖縄の社会の諸現象に一喜一憂することなく、あらゆることに全方位解釈をする癖がつきました。

この言葉の重みはそのまま大城文学の深みとなっていると思います。その後、琉球王国の歴史、土着、女性文化への関心を経て、八重干瀬の神秘に触発され『水の盛装』が書かれます。奪われようとして、なお奪われまいという意志についての話だそうです。

冒頭、トライアスロンについて、こう描写されます。

古来の祭りがしだいに滅びて行く今日、その流れに抗うように島人の総力をあげて盛り立てていく。アスリート達は世界中から集まってくるから、世界人類になりかわって「生存競争」を象徴する新しい祭が生まれた観さえある。

そしてクライマックスでは、千寿は乳癌と、鳴海はトライアスロンと、己の身体を酷使して闘います。
俺がこうして走っているあいだは死ぬなよ、お前を死なさないために、俺はこうして命の限り走っている、という夫の声が千寿にはたしかに聞こえている。(中略)そこで戦う相手は既にアスリート同士ではない。誰もが自分だけと戦っている。

死ぬわけにはいかない。どんなことをしても生きたい。生き抜きたい。


二人の魂と肉体はどうこへ行き着くのか。大城作品の中ではあまり知られていませんが、宮古島から、人間の、宇宙の真理が見える、迫真の一冊です。
2017年4月23日のトライアスロンに参加する皆さまもがんばってください!ワイド―!
19冊目 「水の盛装」
【池間島船越-フナクス-の海】

大城立裕「沖縄という場所から―私の文学―」
立教大学異文化コミュニケーション研究科 2012 年度第 2 回公開講演会(2012年7月14日)
※リンク先は立教大学リポジトリよりpdfダウンロードします。

〔書籍データ〕
水の盛装
著者 /大城立裕
発行/朝日新聞社
発売日 / 2000年8月1日
ISBN /4-02-257523-9

第33回トライアスロン宮古島大会
開催日:2017年4月23日(日) 7時00~20時30分
※インターネット中継もあります。

池間島ガイドマップ(すまだてぃ/きゅーぬふから舎)
※dfpでダウンロードできる、池間島のマップはオススメです。



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Posted by atalas at 12:00│Comments(0)島の本棚
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