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2017年01月13日

16冊目 「琉球諸語の保持を目指して/琉球のことばの書き方」

16冊目 「琉球諸語の保持を目指して/琉球のことばの書き方」

新年明けましておめでとうございます。2017年初め1冊は、下地理則・パトリック・ハインリッヒ編『琉球諸語の保持を目指して-消滅危機言語めぐる議論と取り組み』です。

16冊目 「琉球諸語の保持を目指して/琉球のことばの書き方」沖縄や宮古にはヤマトとはかなり違う方言がありますね。沖縄に行くと「めんそーれ(ようこそ)」とか「にふぇーでーびる(ありがとう)」といった看板をよく見かけます。宮古では「んみゃーち(ようこそ)」「たんでぃがだんでぃ(ありがとう)」とか。
しかし、日常語として方言を話す人は減っています。本書の冒頭で“ある基本的な事実”として次のように書かれています。

世界に六千ある言語の20~50%は、子供たちにもはや話されていない。つまり、これらの言語は今世紀中に消滅する。一九四〇年の段階では、琉球弧の住民の100%が少なくとも一つの琉球諸語を話すことができた。現在では、この数字はほぼ30〜50%にまで減少し、さらにその割合は毎日急速に現象している。(中略)このような事実から以下のような結論ができる。二〇五〇年の段階で琉球語は絶滅する。

絶滅という言葉にドキっとします。
世界的に様々な言語が消滅していく中に琉球諸語(方言と琉球語では持つ印象も違いますね)も入っているのです。この本では、「言語」と「方言」の違いから、琉球語の現状と存続の可能性、言語に関わる教育や政策、世界の事例など、多方面からの論が収められています。

話者の少ない言語や方言は世界中にも日本各地にもたくさんあり、そのどれもがだんだんと無くなっていくことは、ある意味で当然のこととして受け止められていると思います。しかし、それは必ずしも単なる自然現象とはいえず、実は政治的、歴史的な背景があるのです。そしてひとつの言語が失われるということはひとつの文化が消えることであり、それは取り戻せないことなのです。
 
言うまでもなく、政治家や行政関係者、教育関係者などの人々が何をなすべきかについて指令を出すことは言語学の課題ではない。しかし、言語学者の課題には、少なくとも、社会的、政治的な問題を認識し、また危機言語の維持のために対策を提案する事が含まれるのではないだろうか。(中略)記述言語学者たちは、消えつつある危機言語を体系的に記述・記録するスキルがあり、それを実践する責任がある。

編者ほか多数の言語学者が自身の責任、使命として、琉球語の現状を分析し、机上に留まらずにその継承を模索する取り組みが本書です。かつては、収集した言語データが研究室でのみ使用されて当の地域からは手の届かないところにあったことが見直され、アーカイブ化され活用されるようになったことなどは本当に素晴らしいことです。
言語の消滅は避けられないことである一方で、琉球語の保持は可能でもあります。それは私達のあり方次第で、まずは知ること考えることからでしょう。

16冊目 「琉球諸語の保持を目指して/琉球のことばの書き方」琉球諸語の理解のために、もう一歩踏み込んだ実践学習の本が、2015年に出版されました。
『琉球のことばの書き方』です。この本は、言語の専門家ではなく一般の人々の役にたつことを目的として、誰もが琉球語の統一的表記法を学ぶことができる画期的な本です。本書のはじめにで述べられていますが、実はこれまで研究者の間でさえ琉球語の表記は統一されていないそうです。その個別性を認めつつも、方言について何かしようとすると内容以前に表記が問題となり喧嘩別れする、そういう悲しい事態を避けたいという思いから企画されたとあります。

統一的表記でありながら、個別の地域方言の表記法についても、浦方言、湯湾方言、津堅方言、首里方言、大神方言、池間方言、佐和田長浜方言、多良間方言、宮良方言、波照間方言、与那国方言、と奄美から与那国まで丁寧に章立てられて説明されています。しかし、これもほんの一部だという琉球語の多様性と豊かさ!

編者のほか12名の執筆者がいますが、大学院生も含めほとんどがとても若い研究者です。若手研究者が次世代のために、琉球各地に赴き地域言語の採集をしこの本をまとめあげたことに感動します。さらに、アドバイザーに重鎮の教授陣を迎え、この分野の層の厚さ、受け継がれる伝統に頼もしさを覚えます。また現在、琉球語研究には多くの外国人研究者がいます。グローバルな視点からも日本人以上に琉球語を評価されていることに気づかされます。

琉球言語学界の熱さと底力を思い知る二冊です。

[書籍データ]
琉球諸語の保持を目指して-消滅危機言語めぐる議論と取り組み
著者:下地理則・パトリック ハインリッヒ 編
発売元: ココ出版
発売日:2014年09月15日
ISBN:4904595505
https://goo.gl/JTF2Db

琉球のことばの書き方 ―琉球諸語統一的表記法
著者:小川晋史 編
発売元:くろしお出版
発売日:2015年11月25日
ISBN:4874246753
http://www.9640.jp/book_view/?675

【参考資料】
文化庁 消滅の危機にある方言・言語
【極めて深刻】 アイヌ語
【重大な危機】 八重山語(八重山方言)、与那国語(与那国方言)
【危   険】 八丈語(八丈方言)、奄美語(奄美方言)、国頭語(国頭方言)、沖縄語(沖縄方言)、宮古語(宮古方言)



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Posted by atalas at 12:00│Comments(0)島の本棚
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