2016年05月13日
8冊目 「写真集 神々の古層シリーズ」

今月の紹介する本は、比嘉康雄さんの写真集『神々の古層』です。
この写真集は、1989~93年に発行された12冊のシリーズで、沖縄祭祀の写真の中でも、芸術としても資料としても圧倒的な価値と輝きを放つ傑作として知られています。
祭祀の現場に溶け込み、臨場感あふれる写真の他に、各巻にはそれぞれの祭祀における手順やヒトモノの位置、物事の呼び名など、詳細な記録がかなりの頁を割いて書かれています。それは、比嘉さんがただの撮影者ではなく、島々の祭祀の内容や意味を真剣に学び理解した証でしょう。

著者(撮影者)の比嘉康雄さんは、1938年に沖縄からフィリピンへの移民の家に生まれ、敗戦後に沖縄に引き揚げました。その後、嘉手納警察署勤務後に写真家になられました。離島の島々の祭祀に関心を持ったのは、1974年に民俗学者の谷川健一さんと宮古島を訪れたことがきっかけだそうです。それから、宮古島に通い、住み、他の島々に渡っても、そこで時間をかけて島の人々に受け入れられたといいます。
『私の島通いは(中略)、島が発する不思議なオーラにひきつけらたというか、ここには《文化の原形》、《人間とは何か》、それに自分自身を考えるよすががあると直感的に思ったからである。写真家とか記録者とかいうことでなく、一人の人間としてシマ人にむきあった』(比嘉康雄著「日本人の魂の原郷 沖縄久高島」より)
『ある日突然、「取材はいけない」と就任したばかりのアブンマに言われた。これまで祭祀を開放(取材)してきたことが神の怒りをかったとの理由であった』(「神々の古層3遊行する祖霊神」より)比嘉さんはこのとき、取材を辞める決断もしています。
それでも、島の伝統の行方を案じて『これまで何百年にもわたり続けられてきたすばらしい祭祀がなくなることは残念であり、何とか記録を、と考えるのは私だけであろうか』(「神々の古層 3.遊行する祖霊神」より)との想いでこのシリーズを刊行したのです。

1.女が男を守るクニ/久高島の年中行事Ⅰ
2.女が男を守るクニ/久高島の年中行事Ⅱ
3.遊行する祖霊神/ウヤガン〔宮古島〕
4.来訪する鬼/パーントゥ〔宮古島〕
5.主婦が神になる刻/イザイホー〔久高島〕
6.来訪するマユの神/マユンガナシー〔石垣島〕
7.来訪するギレーの神/シマノーシ〔渡名喜島〕
8.異界の神ヤガンの来訪/ヤガンウユミ 〔粟国島〕
9.世を漕ぎ寄せる/シチ〔西表島〕
10.海の神への願い/竜宮ニガイ〔宮古島〕
11.豊年を招き寄せる/ヒラセマンカイ〔奄美大島〕
12.巡行する神司(カーブ)たち/マチリ〔与那国島〕
このシリーズの中で、宮古島が撮影地であるのは「3 .ウヤガン」、「4.パーントゥ」、「10.竜宮ニガイ」の3冊です。70年代に撮影されたこれらの祭祀は、どれも、現在は当時と同じような形では行われていません。年間を通して行われる儀礼の一連の流れを細かく網羅した解説は、民俗学的に貴重な記録です。そして、何よりも写真の圧倒的迫力です。モノクロの写真には、ときに神女の顔のしわの深さまで、ときには引いたアングルで海や森に吸い込まれるような島人の姿を、土と風のにおいまで感じられるようなリアリティがあります。40年前の宮古と現在と、なにが変わりなにが残ったのか。写真にはうつらないところまでもしっかりと焼きつけられた写真集です。
〔書籍データ〕
神々の古層 3.遊行する祖霊神 ウヤガン〔宮古島〕
発売日 / 1991/08/05
ISBN /4-88024-146-6
神々の古層 4.来訪する鬼 パーントゥ〔宮古島〕
発売日 / 1990/10/05
ISBN /4-88024-138-5
神々の古層 10.海の神への願い 竜宮ニガイ〔宮古島〕
発売日 / 1992/12/25
ISBN /4-88024-160-1
いずれも
著者 /比嘉康雄
発売元 /ニライ社
Posted by atalas at 12:00│Comments(0)
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