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2016年01月08日

4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」

4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」

新年明けましておめでとうございます。皆さんはどんなお正月を過ごしましたか。私はおろそかにしたことも多いのですが、初詣に行くだけでも清々しく、きっと良い一年になるよう気合いが入りました。

今月は、「南島針突(ハジチ)紀行」という本を紹介します。
4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」
針突(ハジチ)とは、かつて奄美から沖縄先島までの適齢期の女性が手の甲や腕にする入墨、またその風習のことです。ハジチ、ハイヅチ、ピーツク、ティツク(手突)など地域によって呼名が異なります。

本書は、1983年に出版されています。著者の市川先生は美術がご専門で、偶然にハジチと出会い(その経緯も興味深いのですが)、20年をかけて200近い女性のハジチを調査されたそうです。
紀行というタイトルにふさわしく、当初は造形面から始まった関心が、沖縄の歴史、地理、言葉、信仰まで南島の文化と人々に出会う旅の記録になっています。

沖縄の方は、昔おばあさんの手にハジチを見たことがあるかもしれません。しかし、現在は実際のハジチを見るのは難しいと思います。

というのは、南島のハジチは、明治政府の文身禁止令(沖縄地域は明治32年に、奄美地域はもっと早くに出された)によって、「野蛮極まる」慣習とされ風俗改良の政策の下に廃止されたのです(文身とはいわゆる入墨のことです)。

【左手が宮古のハジチ、右手が沖縄のハジチ】 
4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」南島のハジチの歴史は古く、袋中和尚の『琉球神道記』(1605年)や、もっと以前の中国の古書にも記されています。入墨の文化自体は、女性に限らず世界中に古来から見られる風習で、その来歴や比較についての研究も多くあります。

ハジチの文様は地域や個人により様々で、例えば五つ星、アマン(やどかり)、握り飯、ヒトデなどがあります。中でも宮古諸島のハジチは特徴的で、細かく繊細なタッチになっています。宮古上布から引用された柄が彫られているのも宮古ならではです。

証言によると、ハジチを始める年齢は、10歳未満から20代後半くらいまで色々です。多くは10代の結婚前か結婚してすぐに、という人が多いようです。ハジチは、あの世で道しるべになるとか、魔除けになる、ファッションとして最高にかっこいい!という、少女にとって憧れのものであり、またハジチをしないと大変なことになるという畏怖の対象でもあったようです。

この本の中には、ハジチを持つ女性の記録や文様がたくさん出てきますが、さらに一昨年、実際の映像でハジチを持つおばあさんの証言を見られるDVDがヴィジュアル・フォークロアにより制作されました。撮影されたのは1984年、おそらく針突保有者本人の語る最後の貴重な映像記録ではないでしょうか。

4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」「南島残照 女たちの針突(ハジチ)~沖縄・宮古諸島のイレズミ~」(ヴィジュアル・フォークロア)

撮影されたのは88才から99才までの女性で、既に文様が滲んだり薄くなっている所もあるものの、何十年もハジチとともに生きてきたその手は美しいと思いました。おばあさんがハジチにまつわる思い出を方言で語るとき、まるで少女のような愛らしさです。かつての幼く白い手には、ハジチは一層魅力的に映えたことでしょう。

DVDの中の証言によると、特に沖縄本島ではハジチをしないと「ヤマトに連れて行かれる」とよく言われたそうですが、一方宮古では「お正月に友達と突き合った」「自分のハジチを自慢した、嬉しかった」など楽しげな雰囲気を感じます。また、或る女性はハジチについて語ることを拒んだり手を撮られることを嫌がる場面も見られます。その様子から、ハジチが南島の女性の個人的な内面に深く関わっていることが伝わってきました。

素朴な感想なのですが、やはり突くときは痛いそうです。痛くて泣いた人もいれば、突くのが唯一の楽しみだったという人まで。痛みに対する感じ方が違うのでしょうか。感受性の鋭い時期に身体にしるしを刻み込むということ、その意味は、現代の文化が失った一面かもしれません。

現在、もはやハジチ文化が消滅することは止められません。しかし、ハジチが誤った理解により禁止されたこと、それ以前には美術的にも洗練された文様が、女性の生活を美しく彩っていたことを忘れずにいたいと思います。

最後に、「南島針突(ハジチ)紀行」にも引用されている琉歌を紹介します。

銭金やあてん 後生までや持たん 後生に持とゆむぬや わちみはぢち
(金銭をいくら貯めてもあの世までは持って行けぬ。持って行けるのはこの針突だけである)

沖縄では、「ユー(世)」という言葉があり、豊穣や時代など多くの意味を含んでいます。
ハジチにはそんな「ユー」を乞う人生への静かな覚悟と祈りが込められているように思います。

ぜひ一読一見をおすすめします。

[書籍データ]
南島針突(ハジチ)紀行ー沖縄婦人の入墨を見る
著者 : 市川重治
発売元 : 那覇出版社
発売日 : 1983/5/1
4冊目 「南島針突(ハジチ)紀行」/DVD「南島残照 女たちの針突」
[DVD]
南島残照 女たちの針突ー沖縄・宮古諸島のイレズミ
制作 : 北村皆雄 三浦庸子
発売元 : ヴィジュアルフォークロア
制作年 : 2014年
【お年玉?身体を張ってハジチを再現した作者近影】

《第二金曜担当》 江戸之切子(えどのきりこ)
東京生まれ。東京在住。日々宮古島に想いを馳せながら、身近なみゃーく情報を集めています。



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Posted by atalas at 12:00│Comments(0)島の本棚
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