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2015年11月13日

2冊目 「鬼虎伝説 与那国を守った男」/「シギラの月」

2冊目 「鬼虎伝説 与那国を守った男」/「シギラの月」

今回は、宮古歴史小説を紹介します。

「鬼虎伝説 与那国を守った男」
2冊目 「鬼虎伝説 与那国を守った男」/「シギラの月」鬼虎(おにとら)とは、1500年代頃に与那国島の酋長だったとされる人物ですが、その鬼虎の出身は、宮古島・狩俣です。
なぜ宮古の鬼虎が与那国へ渡り酋長となったのか、鬼虎とはどんな人間だったのか、宮古の歴史物語が小説の中で生き生きと描かれています。

鬼虎は、幼少期から飛び抜けて体格がよかったのですが、当時の宮古は飢饉で大きな子どもの鬼虎を持て余していました。
そこに与那国の商人が現れ、鬼虎を買い、与那国へ連れて帰りました。
与那国で鬼虎は才覚を発揮し酋長になりますが、その頃、琉球(沖縄本島)の中山王は王朝統一のため離島にも使者を送っていました。
琉球に従わない鬼虎を、中山王の命令で宮古の空広(仲宗根豊見親)が征伐しに行きます。

その様子は、多良間島の八月踊りの中の組踊「忠臣仲宗根豊見親組」で演じられます。
この演劇は、仲宗根豊見親の視点に立って、鬼虎は悪者として成敗されます。

しかし、この小説の中の鬼虎は、力強く勇敢で、心の優しい与那国を守るヒーローです。
また、鬼虎を討つ仲宗根豊見親も、時代に翻弄され宮古のために思い悩む姿がリアリティを持って迫ります。
強大な力を持つ琉球王朝に対して、先見の明を持って従うべきだと説く豊見親と、自由と平和に真っ直ぐな鬼虎、二人の会話は現代の我々にも感動をよびます。

他にも、鬼虎を買った金親や与那国の女酋長イソバ、そして鬼虎の守姉の香奈など魅力ある人物が登場します。
与那国征伐という、歴史的、政治的な事件の顛末を読んだ後に心に残ったのは、人間の愛情や島の信仰、普遍的な人間の営みの尊さでした。

それにしても、五百年以上も前に(ということはもっと以前から)宮古と与那国がこんなに交流していたとは驚きです。
話の中では、台湾と与那国の貿易の話も出てきます。
宮古の民謡「鬼虎の娘のあやぐ」では、鬼虎の娘のその後が歌い継がれていて(宮古工業高校裏の袖山は、この唄が由来との説があります)、同じ内容の唄が八重山民謡にもあります。
多良間島八月踊りといい、島々の交流史は想像以上に広く、歴史が唄や踊りによって伝承されていることに感心します。

著者の伊良波盛男さんは、1942年池間島生まれ。琉球政府立宮古水産高等学校機関科卒業。
その後、本土でも学ばれて小説の他に詩人としても活動されています。
1977年に沖縄タイムス芸術選賞奨励賞、1979年に山之内貘賞を受賞されています。
伊良波さんの他の著書、「カナシ伝」や詩集もおすすめです。


「シギラの月」
2冊目 「鬼虎伝説 与那国を守った男」/「シギラの月」もうひとつ、宮古の歴史小説として藤川桂介著「シギラの月(上・下)」をおすすめします。
藤川さんは、ウルトラマンや宇宙戦艦ヤマトなど、多くのアニメや特撮などを手がけた東京出身の脚本家・作家です。
そんな方がなぜ宮古島を舞台に歴史小説を書いたのか、あとがきも読み応えがあります。
宮古島の(作中では蜜牙古島と表記しています)古代神話時代から、戦乱時代、そしてその余韻を現代まで貫く歴史ロマン大作です。

両書とも、宮古の歴史に興味はあるけど古文書や学術書なんて読めない!という私のような者には、宮古が琉球王朝の支配下に置かれる過程を大観できる素晴らしい本だと思います。
また、宮古歴史玄人の方々なら、細部まで織り込まれた宮古歴史ネタを見つけ、笑ったり突っ込んだりできるのではないでしょうか。


[書籍データ]
鬼虎伝説 与那国を守った男
著 者 : 伊良波盛男
発売元 : 文芸社
発売日 : 2014年2月15日
ISBN 4-8355-6976-8

シギラの月 
著 者 : 藤川桂介
発売元 : 廣済堂出版
発売日 : 1999年6月1日
ISBN 978-4331058213(上巻)
ISBN 978-4331058220(下巻)

【参考資料】
宮古島キッズネット
鬼虎ぬ娘のあやぐ
「八重山の乙女のあやぐ」

《第二金曜担当》 江戸之切子(えどのきりこ)
東京生まれ。東京在住。日々宮古島に想いを馳せながら、身近なみゃーく情報を集めています。



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Posted by atalas at 12:00│Comments(0)島の本棚
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