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2017年10月31日

第2話 「海までの距離感」

第2話 「海までの距離感」

あともう30分で、搭乗口が開くという空港のベンチで、要冷蔵かもしれない「くさや」のトビウオの真空パックを売店で買い、ついでに缶ビールとおつまみのプレッツェルの小袋を買った。
ベンチに戻ると、ちょっと罰がわるい。

息子にも何か買ってあげようか。
「ハッピーターンあったよ、売店で何か買う?」
と、声を掛けるが、
本人は味の濃いプレッツェルを横からつまんでペットボトルのぬるいお茶で満足で、空港のテレビに映るバラエティ番組に夢中です。
第2話 「海までの距離感」
東京・羽田空港と結ぶ、1日3便もある飛行機は満席で、待合所のベンチもぎっしりだ。
ビールを飲んでいる人があまりいないので、ちょっと控えめにプルタブを切った。

隣のおじいが、おばあに、「缶チューハイでも飲もうか」と声をかけた。
プルタブの音の威力。缶ビールの連鎖。
私はビールのあまりの美味しさに、おもわず「あー」と声が漏れそうになるのをこらえつつ、旅を振り返る。

息子につぶやく。
「息子君。どこが、何がおもしろかった? おかあさんは・・・そうだなー」

大きな窓の向こうに目をやると、ヘリコプターが飛び立つところだった。
八丈島から南へ60キロの青ヶ島へは、ヘリで20分。
他にも、伊豆諸島の島々を、人を運ぶヘリが、まるでバスのように循環している。
時刻表だけ空港のカウンターで目にした。
料金はいくらかな。何人乗れるのかな。
わからないことだらけ。

わからないことだらけの場所で、自分でひとつひとつを発見して、知っていくのは楽しい。
とても楽しいことだ。
島の人が親切すぎて、いろいろおしえてくれすぎたら、短時間滞在型の人にはありがたいけれど、私みたいな人間にはやっぱりちょっと、つまらない。
けれども、けれどもですよ。

空港や観光案内所にある八丈島の地図の、まったく効率のわるいこと。。
私は、いちばん大きな一枚地図と、バス停だけが載っている一枚地図。どちらも四つ折りの、カラーのいい紙を使っている。
それを2枚、併せ持たないと、移動できないでいた。。。
どうしてこれらか、一枚に統合されないのだろう。。。
旅人は皆、思うはずだ。

それから、地図には等高線が書いていない。
あたりまえか(笑)。
でも、この、あまりの高低差に、うっかりレンタサイクルで海を目指したりして、下りきってしまったときには、どうやって戻るんだろ、泳ぎ疲れた体で。。。

はい。
三原山の集落、坂上といわれるエリアでは、どこも崖の下に海がある。地図では「海水浴場」って書いてあるから、一周道路からてくてく、徒歩で下りていく。
集落内の地図は、島全体の一枚地図の大雑把なやつをみながら進むので、いまいち距離感がわからずに。

なんと我らは1400メートル先の海岸を目指して出発してしまった。
すべて下り坂。
どんどん急勾配。
第2話 「海までの距離感」
廃屋だか住んでいるんだか、判別しにくいような民家が途中、ぽつぽつとあるが、人の気配はしない。

うねうねとうねる道。
先は見えないが、海の方角だけは間違いようがないので、もうなんとなく、目の前に伸びる道を下っていく。
だいぶ下りきったところで、しかし地図でいうと、ここはどこなんだろう、あぁもう、迷ってしまったかなというところで、レンタカーから作業服のおじさんが出てきて、自販機でお茶を飲んでいる。

やっと自販機だ。やっと人に出会えたと思い、
「足湯の温泉、このあたりですかね」
と、訊いてみる。
「そこ、先、行ったところだよ」
と、ぶっきらぼうにおしえてくれたので、
「さーもう少しかなー?」
と、息子を励ましているふりをして声を出し、自分を励ます。

次のカーブを曲がったら、視界が開けて目前が海原。
そこにただぽつりと、足湯のベンチと屋根があった。

聞いていたとおり、ここらのお湯はどんどんじゃんじゃん湧いてくる。
塩素ではなく溢れさせることで清潔を保つと、看板にも書いてあった。

足湯はここか。
発見できた。
でも、でもでも私はいちおう地図で、無料の足湯ではなくてちゃんとした施設になっている300円のやすらぎ温泉を目指していたんだ!
どこにあるんだ!もー、

道はくねくねで、どっちがどっちだかわからない。

先ほどのおじさんが車ごと下りてきた。
ふたり、おじさんが車から降りた。
ひとりのおじさんが、ささっと靴と靴下を脱ぎ、足湯に浸かった。

これは聞くのが一番と、足湯の屋根をくぐり、そのおじさんに訊いてみた。
「やすらぎの湯の場所は、ここからどうやって行くんですかね」
「う~ん、ここから、4,500メートルはあるよ、乗せていく?」
わー!・・・なんとなんと、ありがたい。
下りだというのに、この足の疲れ。
第2話 「海までの距離感」
息子なんかギョサンだ。(※ギョサン=漁業用サンダル)
どうしよう、やすらぎの湯にはバスが通っていたはずだけれど、2時間に1本のバスを当てにしてはいけない気がするし、もうこのまま、崖上の民宿まで乗せてもらおうか・・・。

という弱気な考えも一瞬よぎったが、
まずは人がいるところまで。やすらぎの湯まで。

おじさんは足湯に浸かったばかりだ。
こちらも浸かって、同じ時間を過ごすしかない。

こちらは暇だが、おじさんはきっと仕事中だ。
合わせるんだ。おじさんに。

「この足湯は、夜まで開いているって聞きましたけれど、夜はやっぱり、星がすごいんですかね」
「・・・どうだろね、そんな夜まで開いてるの?」
「9時までって看板に書いてあったから。でも、初めてくるなら道がわからないから、夜はこわいな」
とか何とか、話してみる。

「私たちは今日はこの上にあるガーデン荘に泊まるんです」
と言ったら、
「おれたちも、ガーデン荘ですよ」
だって。。。

・・・地元の人じゃなかった。
てっきり地元の方かと思い込んで失礼いたしました!
と、慌てて取りなし、でも、仕事で来ているということで、仕事中には変わりがないのだと。

そういえばレンタカーだった。。。
レンタカー会社と提携している地元の人かと、まったく疑問に思わなかった。

さて、乗せてもらうことになったレンタカーには、後部座席に何かの測量計など、精密そうな機器がぎゅうぎゅうに積まれていて、その隙間に楽を乗せてもらい、私は助手席で、おじさんひとりを足湯に置き去りにして(笑)。

とりあえず、やすらぎの湯まで、運んでもらった。
ものすごい急勾配の、幅の狭い道で、なんと路線バスとすれ違った。

・・・あれは私の運転では、絶対に無理だった。
オートマで、ギアをうまく操れず、きっと立ち往生したと思う。。。
そう考えると、こわいよーこわい。。。運転はしっかり、習っとくべき。

そして、やすらぎの湯に着き、また後ほど、と挨拶をしておじさんの車に別れを告げた。
やすらぎの湯は、小さな施設だった。
カウンターには、ご夫婦かな、雰囲気の良いおじさんとおばさんがいて、安心した。


ありがとうございました。
次回に続きます。


扇授 沙綾(せんじゅ さあや)

1976年 東京生まれ。
2003年から2011年まで、宮古島・狩俣に住む。
伊良部島へフェリーでの1年間の通勤を経て、東京へ。
現在、東京在住。
12歳の息子と二人暮らし。



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