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2016年09月23日

其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐ

其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐ

ひとたび彼女が唄いだすと、空気はまるで魔力を帯びる。
彼女の声は身体中の穴という穴から体内に入り、臓腑をなでるようで、皮膚を優しく愛撫するようで、全身が「何か」に包まれてゆく。伸びやか、ストレート、野趣、強靭、倍音など、人は、その感覚をさまざまな言葉で語るが、彼女の唄声は、本当になんと表現すればいいのだろう。

其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐ與那城美和(以下、ミワさん)は、宮古を代表する民謡、古謡の唄い手だ。ミワさんの元には、国内外のアーティストから競演ライブのオファーが舞い込む。
特に昨年からは、ジャズ、ロック、アフリカンダンスと、ジャンルと国境を超えてのラブコールが相次ぎ、聴く人々を次々に魔法にかけまくっているのである。
そんなわれらが唄姫、ミワさんは、幼い頃から宮古の民謡や琉球古典音楽に興味を持ち、最初は、押入れに隠れてこっそりと、家人の三線をつま弾いていたという。小学校4年生で晴れて三線を習い始め、「工工四(くんくんしー)」を手にしてから夢中になった。
長じてからは、野村流に入門し、琉球古典の唄・三線にも打ち込んだ。平成8年には、琉球新報主催のコンクールで新人賞、平成13年、優秀賞、そして平成20年には、最高賞を受賞している。
ミワさんの名が世に知られるようになったのは、7年前。
『っすとぅす゜(白鳥)ぬあーぐ』という古謡との出会いだった。

狩俣で遊んだ帰りの青年たちが、サディフガーの近くで
とても美しい女性の唄声を聞いたんだって。
その声に惹かれて近くに寄ってみると、
大樹の枝が天に昇るように伸びていて、
そこに一羽の白い鳥がとまってた。
その鳥が唄ってたのが白鳥ぬあーぐ。

【サディフガー御嶽。手前の丸蓋が井戸跡】 
其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐサディフガーは、現ヤコブ保育園近くにあったらしい。今でもそこは小さな御嶽になっている。狩俣とはまた遠いが、きっと狩俣には美しい娘さんたちがいたのだろう。遊んで歩き疲れて平良についた青年たちは、樹上の白鳥のそれはそれは美しい唄声に魅了され、いつまでも立ち尽くして聞き惚れていたという。まるでローレライではないか。

白鳥は卵を7個産んだって。
十日二十日暖めて、ヒナがかえったんだけれど、
その中の1羽がとっても美しい羽を持って生まれてきた。
そのヒナは、他の兄弟はみんな白いのに、
どうして自分だけ違うのと泣き、母親に嘆くわけ。
すると母親は言うの。
そういう風に生まれてきたんだから、気にしてもしょうがない。
だいたい、それが一体どうしたの?と、そんな歌。


アカペラで唄いあげられる、物悲しくも美しい宮古の古謡。その歌詞の内容はものすごく深い何かを示唆するような、いや、そうでもないような。「は?あんたは、なにか?そんなことでくよくよしてるかよ?」と、何となくだが、宮古のかーちゃん的にヒナを励ます唄なのだ。
話を7年前に戻そう。ミワさんと、この古謡との出会いは偶然だった。ミワさんは、自分の唄を録音するために、お姉さんからボイスレコーダーを借りた。返却の際、全部消去したつもりだったが、1曲だけ消し残しがあり、その唄声を、たまたま古謡研究者である本永清先生が聴いたという。その頃、本永先生は城辺町史の古謡編を担当していて、その手元には、1本のカセットテープがあった。城辺の友利メガさんが唄う「白鳥ぬあーぐ」だった。メガさんはすでに亡くなり、もう誰も唄い継ぐことができないと思われた幻の古謡だったのだ。

こんなに美しい唄なのに、もう唄える人がいないと
先生たちは焦ってたみたい。
どうにかして復活させたいけれど、唄えそうな人がなかなかいないと。
私の声を聴いて、これだ!と思ったらしい。
後日、挨拶に行ったら、高校の時に習った先生でお互いびっくり!(笑)


古いカセットテープを繰り返し聴いて、ミワさんは曲を覚えた。与えられた時間は1か月。博物館で開催される講座で、古謡を唄うことを求められた。

古いテープだからところどころ音が伸びてる。
だから、そのまま同じというわけにはいかない。
でも、自由律の曲は自分の呼吸で唄えばいい。
声の伸ばし方も人それぞれで、心臓の心拍数で速度が決まるくらい。
琉球古典では、速さの単位そのものが脈。


其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐこうして古謡の唄姫は誕生した。
幼い頃から親しみを感じてきた島の音とリズムと、ミワさんの身体と魂が調和し、その唄はミワさんの唄となった。「彼女はこれを歌うために生まれてきた」という人もいるほどに、聴く人々の心をとらえて離さないミワさんの白鳥ぬあーぐは評判を呼び、テレビ出演など人前に出る機会も増えた。平成25年には、宮古の民謡と白鳥ぬあーぐを収録したCDも発表。
アーティストとしての、本格的な活動が始まった。
そして、古謡との出会いは、ミワさんの唄をも大きく変えた。

唄い始めると、胸から上がまーるく膨らむの。
自分の上半身は風船みたいなものに包まれて、
自分の口がその中でどんどん大きくなる。
もう身体半分が口になってるみたいな。
その口がぱかーっと開いて、声を出してる。
だからかな。なんかの媒体みたいだという人もいる。
唄うというより唄わされているみたいだと。


文章にするのも怖いくらいなのだが、きっとミワさんの身体は、古謡を唄うことで何か別物に変化するのだ。だからこそのあの不思議な魔力。そう思えば謎が解ける。
ライン川で美しい歌声に魅了された船頭たちが、川の渦に飲み込まれしまうローレライ伝説とは違い、ミワさんの唄は人を救う力にあふれている。

わたしのライブに友人が彼女の友達と来てくれた。
翌日、朝早くから、彼女が泣きながら職場にやってきて、
ありがとう、ありがとうというのよ。
「昨夜連れてった友達、死にたい、死にたいといってたんだけど、
あなたの唄を聴いて元気になったの。明日から頑張って生きていくって!」と。
其の5 祈ることは唄うこと。唄うことは祈ること。 ミワさんの白鳥ぬあーぐその言葉を聞いて、やっぱり唄っててよかったなと思った。


ミワさんは、漲水御嶽によくニガイに行く。
島を出るとき、帰ってきたとき、雨が降らないとき、誰かが困っているとき、何につけ漲水御嶽にニガイに行く。
そしてそのニガイは、実によく届く。
最近のことだが、台風に追われている友人のためにニガイをしたときには、珍しく本州から沖縄に向かっていた台風が、急に向きを変えるという気象予報士もびっくりの現象が起きた。
「わたしはこの辺で生まれているからさ、神様もちょっとは聞いてくれるのかも」とミワさんは笑うが、その奇跡はきっと古謡と無関係ではないと、わたしは睨んでいる。
【漲水御嶽の猫】 

※     ※     ※     ※     ※

【あとがき】
先日のことです。ミワさんと津軽三味線弾きのコラボライブを企画したのですが、そのライブ終了後、白鳥ぬあーぐの話をしていたんですね。そしてミワさんがポツリ。「7という数になんか縁があるんだよね。卵が7つ生まれるとか、この唄をうたったのが7年前とか・・・」。その場にいたナイチャーらしき女子が、びっくりしたように「あの、わたしの名前、白鳥ナナというんです!そしてわたし、宮古島にちょうど7年前に来たんです!」さらに聞けば、彼女はサディフガーのすぐそばの酒屋さんで働いていて、「あの御嶽、毎日見てて、なんか気になって、毎日挨拶してたんですよー!」ああ、ほんとに、宮古って!!
(きくちえつこ)



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この記事へのコメント
うわ〜まさか私のことが書かれているなんて!ちなみに宮古に来たのは9年前ですが 今の酒屋に入社したのが7年前で 酒屋の会社名が 大樹 と言うんです。
偶然にしては出来すぎてますね(笑)
美和さんと出会えたことも この歌を聞けたことも 聞いたタイミングも全て偶然とは思えません。
宮古って!(笑)
Posted by 白鳥ナナ at 2016年09月23日 13:10
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