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2017年10月27日

その13 「それでもキミが好き。モリヤダイスケのツンデレ宮古ラプソディー」

その13 「それでもキミが好き。モリヤダイスケのツンデレ宮古ラプソディー」

宮古島には毎年、2000人を超える移住者がいるという。そのうちの半分は県外からの移住者、「ナイチャー」だ。移住ナイチャーとひとことでいっても人それぞれではあるのだが、多くは、宮古に恋し、宮古病にかかり、人生をある意味リセットしてこの島へやってくる。して、モリヤ氏もそのひとり。このATALAS blogの管理人にして毎週火曜に更新されるコラム「んなま to んきゃーん」の執筆者。島中の石碑を巡り、わずかな手がかりを頼りに文献を調べ上げ、時にSF的妄想を膨らませ、誰も知らない島の歴史の断片を精力的に紐解いてみせる、そのモリヤ氏だ。名著「宮古島まもる君パーフェクトガイド」の著者である、あのモリヤ氏だ。片道切符で島へきてから17年、モリヤ氏はもっぱらアルバイトや臨時職で食いつなぎ、少し、いやかなり特殊な変態的宮古愛を貫き通す。

その13 「それでもキミが好き。モリヤダイスケのツンデレ宮古ラプソディー」20年ほど前までは鉄道オタクで、北海道から鹿児島まで全線網羅した。
乗ってない線、全部合わせて100キロ切ったかな。
46都道府県はすべて回り尽くし、そういえば47個目があるなと沖縄へ。
地図を広げると大小の島がたくさんある。
となると今度は全島制覇したくなる。それがオタクの本能だから(笑)


以来、ノリテツを返上し、沖縄詣でが始まる。本島、石垣から八重山を巡り、そして3つ目の宮古で「ドハマった」。

みんな言うことだけど、やっぱり人だろうな。
異常なほどのホスピタリティの高さにやられた(笑)
泊まっていた民宿は、夜は居酒屋にもなっていて、
地元の人たちと一緒に酒を飲んだりすると、
明日はどこどこに行くよとか、バーベキューやるよとか、
勝手にスケジュールが決まっていく。そんなのが、すごく居心地よくて。


実はモリヤ氏、コミュニケーション障害とあえて自称し予防線を張るほど、人との付き合いには臆病だ。豊富な旅の経験の中でも、見知らぬ人たちといきなり一緒に飲んだり、どこかへ出かけたりなんてことは皆無だった。ところが宮古。島のお兄さんたちは、きっと見抜いていたのだ。モリヤ氏の屈折した寂しさを。不器用な人懐っこさを。

立て付けの悪い心のトビラをこじ開けられた都会のオタク青年は、ほどなくして島への移住を決めた。厚木のオートロックマンションから移り住んだ家は、フクギ並木の見える狩俣の小さな一軒家。しかし、ここから濃密な島暮らしを通し、おずおずとしたオタク青年が開放的でストレートなビーチボーイに変身する物語が始まるのかといえば、もちろん、そんなわけはない。

レンタルビデオ屋でアルバイト始めて、帰るのは深夜。
昼間はずっと寝てるから誰にも会わない。誰とも話さない。
ここにいる意味はないなと思って、市内に引っ越した。


集落にいるのに人と会わないというのは結構しんどいことだったとモリヤ氏はいう。旅の人として通っていた時と違って、住人となれば、周りもそうそう構ってくれるわけでもない。性格上、自分から声をかけて関わりを持つこともまた難しかった。
それでも、「島に住んでいる」という実感は、ふとした折に心を満たす。

大浦湾あたりを走ってると、ああ、もう帰らなくていいんだ。
ここに住んでんだよな俺、って。
旅人の時には、帰るときの風景でもあったからさ。


平良市内に移り、仕事場も近くなり、フットワークが軽くなったモリヤ氏は、アルバイトの傍ら、本格的に仕事探しを開始。そして宮古初で宮古発の情報WEBマガジン「あんちーかんちー」の創刊、編集を任される。ちなみに観光案内には絶対に出てこない、宮古島のちょっとマイナー案件を調べようとダメ元で検索すると、今でもここにヒットする確率はかなり高い。また、かの沖縄巨大サイト、TI-DAブログには立ち上げから参加。宮古島カテゴリーから週2ペースでコンテンツを配信した。

当時はブログの黎明期。宮古でブログを始める人たちもボチボチ出てきて、
「宮古島のブログを集めるブログ」というのもやったりした(笑)
島在住の人たちだけのSNSネットワークも立ち上げて運営して、
当時150人くらいは集まったかな。
そんなのが名刺代わりにもなって、HP制作の依頼も結構あった。


はたしてモリヤ氏の名前は、宮古関係のネット社会で広く知られることとなった。あまりにその名前だけが独り歩きし、モリヤ氏はネットの中だけの存在ではという噂まで、まことしやかに流れた。つまり夜明けを迎えたばかりの宮古のIT界に、彼は新星のごとく現れたのだった。がしかし、その栄光も長くは続かない。

しばらくして仕事がぴたりとなくなった。
俺の技術なんて、あっという間に古くなる。
東京のIT業界でバリバリやってた人たちが、次々にやってきた。
もう太刀打ちできない(笑)


気が付けばパソコンがあればどこでも仕事ができる時代になっていた。最新のIT技術やキャリアを携えたUターン、Iターン組の島回帰が起きていた。モリヤ氏の実績も、あるいはそれを加速させたかもしれない。島発信のライブリーでディープな情報への反響はそれほど大きかった。とはいえ、仕事が途絶えたモリヤ氏にとっては死活問題。手元には数枚のコインしかないところまで追いつめられた。
その13 「それでもキミが好き。モリヤダイスケのツンデレ宮古ラプソディー」
【左から、“ポスカードアート展ぴん座2017フライヤー”、“宮古島まもる君パーフェクトカイド”、“島を旅立つ君たちへ2017”】

仕事してもギャラを支払ってもらえない。そんなことが何度もあった。
ナイチャーだからなめられる。


「ナイチャーは宮古ヒエラルキーの一番下だからしょうがない」モリヤ氏がよく口にする言葉だ。バイトが決まりかけても、直前にキャンセルされる。部屋もなかなか借りられない。何かするたび叩かれる。ボコボコの悪口が人づてに耳に入る。冷たく吹く風をひりひりと感じ、そのたびに「どうせナイチャーだからねっ!」と怒ってみせるが、その割りに、実は怒ってはいない。「結局さ、宮古って、俺にとっては永遠の片想いの相手なんだよ」と。

なんとかなっちゃうんだよね。
こっちでダメでも、ギリギリのところで拾ってくれる場所がある。
多分、それも宮古だから。


IT最前線から撤退し、職探しに奔走するぎりぎりのモリヤ氏に声をかけたのが、文化歴史関連のとある部署。臨時職だが、好きなことが仕事につながった。埋もれた石碑や壕や井戸や御嶽から歴史の断片を掘り起こし、点と点を結べば謎がとける。線と線で物語が見える。モリヤ氏の性癖は、そこではもはや強力な武器になった。

結局オタクだからさ(笑)
興味ある分野は掘りまくる。それが性分。
宮古ってさ、歴史の文献開いたまま、それ持ってすぐに現地にいけるのよ。
なんならそこに、誰も気づかなかった過去の痕跡が見つかるんだから。


宮古嫁や婿は血縁で島とつながる。若い夫婦は子育てを通して島とつながる。店舗オーナーや事業者は、人や経済で島とつながる。アーチストは芸術で島とつながる。しかし、ただの単身ナイチャーは、どう島と向き合うかが曖昧で難しい。そこにテーマやメッセージがないと、10年、20年、ましてや一生住み続けることは、多分つらい。

自称コミュ障の鉄道オタクが人に惹かれたという、モリヤ氏のパラドックス的宮古移住は幸いなことに、埋もれたままの宮古島の歴史や文化の痕跡を探し、謎を解き、保存するという宝に行きついた。「島のために!」とコブシをあげるのでもなく、島社会に溶け込むわけでもなく、ナイチャーコミュニティに属するわけでもなく、彼は本能のまま、コツコツと足元を掘り起こす。たぶん、それがオタクという凄みだ。

きっと今日も、彼は嬉々として、ひとり島を歩き回っているだろう。彼の見つけた小さな痕跡は、やがて少しずつつながり、いつの日かこの島に、隠れた歴史が路線図のようにトレースされるのかもしれない。そしてその日、誰かが「島のためにありがとう!」と言ったとしても、彼はきっと「別に?好きでやってるだけですが何か」なんて、ちょっと感じ悪く答えるのだ。うん。そんな気がする。

※     ※     ※     ※     ※

【あとがき】
さて、宮古かいまいくいまいもシーズン1、シーズン2あわせて、今回で24回目になりました。そして今回を最終回として、宮古かいまいくいまいは連載終了とさせていただきます。
えっと、最終回は楽屋落ちというオチです。すみません。ちなみに、いまだモリヤダイスケがネット上だけの存在だと思っているアナタ、モリヤダイスケは実在の人物です。念のため。これまで、お話を伺わせていただいたみなさまに心から感謝します。そして拙文をたまに、あるいは時々、万が一最後まで読んでくださったみなさま、心からありがとうございました。しかも、いいね!までしてくださったみなさま、今回もいいね!お願いします。本当にありがとうございました。きくちはしばらくベンチで待機いたします。また出番がありましたら、そのときはまた!!

最後にモリヤ氏からのお知らせです。
きくちえつこ

※     ※     ※     ※     ※

えー、「ATALAS blog」創刊時から一貫して、人をテーマに特濃な物語を紡いでくれた“きくち”さん、シーズン1・2あわせて24話。ちょうどまる2年分(途中、休憩もありましたが)。お疲れ様でした。まさか、最後は自分が出ることになるとは思いもよらなかったけれどね(汗)。
けど、これは「劇終-おしまい-」ではなく、宮古的な「あとからねー」だと、勝手に思っています。だから、いつの日か、シーズン3が来ることを密かに期待していますよー!。
で、なんかラストにお知らせしろ!と1行書かれてあったので(原稿に)、誠に手前味噌ではありますが、がっつりさせてもらっちゃいましょうかね。。。

その13 「それでもキミが好き。モリヤダイスケのツンデレ宮古ラプソディー」「ポストカードアート展 ぴん座 2017
   ―10th anniversary PINZA Since 2007―」 

創設10年目、3年ぶり7回目の開催となる、ポストカードを題材にした合同企画展です。
「送る」+「贈る」で伝えるコミュニケーションの提案と、そこに描かれる宮古島発のアートを応援することが、ぴん座のコンセプトです。

「ポストカードアート展 ぴん座 2017」
日程 2017年11月23日( 木・祝)~26日(日)
時間 12:00~20:00(最終日は19:00まで)
会場 花ギャラリー TOMOE(西里通り) [入場無料]
詳しくはコチラ→Blog FaceBook Twitter



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