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2019年06月14日

41冊目 「島の本棚-2019-」総集編特番



新旧さまざまな島の本を紹介している「島の本棚」ですが、現在、諸般の事情で担当不在。輪番制も不発。告知を続けて来たゲスト執筆の希望者もなく、毎月の連載が厳しくなっているため、今回をもって定期掲載を休止させていただくこととなりました。

2015年10月から月イチでスタートた「島の本棚」では、これまで40冊の本を取り上げて来ました。
2017年に特番として、それまでの17冊を振り返り、2018年にも、18冊目から36冊目までの19冊(うち一回は宮古島文学賞の紹介)をまとめとしてふりかえてきました。その後は前述の通りの状況から、休載を幾度か挟んだり代打に代打を重ねて青色吐息で続けて来ました。まとめとしてご紹介するには少し冊数が少ないですが、3度目のまとめをして、今回は締めくくっておきたいと思います。



37冊目 「トロイメライ」 阿倍ナナメ
https://atalas.ti-da.net/e10858825.html

38冊目 「伊良部町商工会のあゆみ」 tsuki
https://atalas.ti-da.net/e10942858.html

39冊目 「シマコイ・チャンプルー」 モリヤダイスケ
https://atalas.ti-da.net/e10984747.html

40冊目 「綾道 城辺 東・北コース」 モリヤダイスケ
https://atalas.ti-da.net/e11052218.html


◆2017年 まとめ
金曜特集 「島の本棚-2017-」特番
https://atalas.ti-da.net/e9372965.html


◆2018年 まとめ
金曜特集 「島の本棚-2018-」特番
https://atalas.ti-da.net/e10753193.html

ご精読、ありがとうござました。
  


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2019年04月12日

40冊目 「綾道 城辺 東・北コース」



平成25年度から宮古島市教育委員会が、毎年地域を絞って発刊している「宮古島市Neo歴史文化ロード 綾道(あやんつ)」。もうご存知の方も多いと思われますが、島の歴史や文化をあれこれ楽しみ、散策しながら知ることが出来る、他に類をみない地域密着型ローカル無料のガイド冊子です。このほどシリーズの8冊目が「綾道」が発刊されたと噂を聞いて、どこよりも早く(?)スクープっぽくご紹介させていただきます(どういうわけか、毎年「綾道」が完成してもなぜかプレスリリースがなされないので、市民に観光客に知るチャンス、知らせるチャンスを逸している気がするので、まわりで勝手に盛り立てています)。

今回(平成30年度)に発刊された「綾道」は、「城辺北東コース」。以前、第1弾として発刊された「砂川・友利コース」以来の城辺地区となります。しかも、城辺9字のうち7字(2字は砂川・友利なので、実質残り全部)を詰め込んだ宝箱のような一冊です(もったいないから、せめて東と北くらいに分けて作ってほしかった)。しかも、フルカラーで約70ページが無料です。この一冊があれば、歴史と文化を学び、景観と自然を慈しみ、ほぼ城辺を隅々まで堪能することが出来ます。

今回のコースはエリアが広大なこともあり、コース延長は約40キロ。所要推定時間も3時間と設定されていますが、楽しすぎて見学に時間がかかることは必須なので、おそらく本気でフルコースを廻ったら、この倍は必須の「満願全席」級になりそうな気がします。それを見越してか、フルコースを分割した「新城・保良」「西里添・下里添・福里」「長間・比嘉」と、トライアスロンのように3つのショートコースも設定されています(ショートと云いながらもそれなりにボリュームはあります)。

●新城・保良コース
旅の起点は宮古島の最南東端の東平安名崎から。すでにスタート地点にして見どころがいっぱいあります。まず、なんといっても国指定・名勝「東平安名崎」。そして「東平安名岬の隆起珊瑚礁海岸風衝植物群」(県指定)。ちなみに灯台は「平安名埼灯台」と表記します)。気づきましたか?。余談ですが、崎と岬と埼と示すものによって字が全部違っているのです。それぞれ公式表記なので気をつけたいところです。さらにここは伝説の美女マムヤに関連する伝承ポイントもあります。もうここだけでお腹いっぱいになりそうですが、他には、もうひとつの国指定天然記念物の「宮古島保良の石灰華段丘」。七又のミーマガー、ぐすくべのアギイス(七又・新城・西中)、おっぱい山、アラフ遺跡、保良元島遺跡などなど。

●西里添・下里添・福里コース
スタート地点は宮古島市城辺庁舎(発行元の宮古島市教育委員会があります)。城辺は人頭税廃止運動が盛んであったことから、区域内に人頭税廃止に活躍した人物の石碑がいくつもあり、綾道では「城辺と人頭税」のかかわりについてまるっとまとめられています。また、城辺は世界で初めて作られた地下ダムのある場所であり、特有の地形から地下ダムの構造や成り立ちについても判り易く解説されています(資料館もあります)。この他、こちらのコースでは「旧西中共同製糖場煙突」(国登録有形文化財)、「上区の獅子舞い」、「前井と御神木その周辺の植物群落」なども取り上げられています。

●長間・比嘉コース。
このコースも城辺庁舎を起点にしています。飛鳥御獄、西銘御獄にまつわる物語は、これまでの「綾道」でも触れて来た、目黒盛豊見親、与那覇勢頭豊見親、そして仲宗根豊見親の活躍へ繋がってゆく島の歴史の源流にあたります。また、山川のウプカー、野加那泉、野城泉など生活にかかせない湧水が紹介されています。中でも山川のウプカーがもたらす豊富な水によって、長間田に大水田があった記録は目を見張ります。。水の恩恵を受ける地域がある一方で、水に悩まされる地域もありました。山に挟まれた加治道は、大雨のたびに田畑が冠水してしまう低地でしたが、昭和の初めに1キロもの瑞福隧道が掘削され集落を救います。当時の高い土木技術が偲ばれます。

「綾道」にはまだまだ色々なポイントや豆知識、物語などが紹介されています。こんな風に1日ひとコースで3日かけて廻れば、確実に濃~い旅が楽しめるばずです(無論、読み物としてじっくりと読むだけでも、それはそれで楽しむことが出来ます)。

昨年、金曜特集で「綾道-平良北/松原・久貝-」を紹介した際、今後の事業計画として「城辺」の後に「上野」「池間・狩俣・大神」が計画されているとありましたが、2019年度はなんと「綾道」事業休止だそうです。予算の都合なのでしょうか、なんだかとってもとっても残念です。ぜぜひひひで、2020年度には大復活してくれることを祈りたいです。たくさんの市民の声が届け~!。
なにしろ広い宮古島。まだまだカバーされていないエリアが、計画されている地区以外にもあると思うのですよ(ぱっと思い浮かべたたけでも・・・西辺・大浦・成川あたりとか、添道・鏡原・宮原あたりとか、腰原・富名越・東川根あたりなんかはどうでしょう)。
また、近年、新たに指定されたり、今までの地区でも部分的に抜けてしまっているとことかもある気もしているので、改訂版とかあってもいいかと思います。
個人的にはさらにさらに展開して、区域だけじゃなくテーマで括って作っても面白いのではと思ったりもします。たとえば「ドイツ商船ロベルトソン号と博愛の話」とか、「人頭税廃止運動」とか、「三人の豊見親の物語」とか、「城跡・墳墓・井戸などの古の構築物」とか、流行の「水中遺跡」とか。あとはエリア区分がしづらい動物や植物など自然系を一冊まとめても楽しいはず。「戦跡編」も調査が進んでいるから、パート2がそろそろ作れるんじゃないだろうか。っと、ちょっとばかり妄想が過ぎましたが、ともあれとっても楽しい「綾道」事業の復活を切に願っています。

【書籍データ】
編集発行 宮古島市教育委員会
発行月 2019年3月
イラスト・デザイン 山田 光
平成30年度宮古島市neo歴史文化ロード整備事業

【トピックス】
宮古かいまいくいまい シーズン2
その10「島の地図、塗り替えてます!? 光さんの綾道(あやんつ)」(2017年05月26日)
現地まで足を運んで、「綾道」のイラストを手掛けている山田光さんのお話。

【宮古島市neo歴史文化ロード宮古島市教育委員会公認アプリ】
 https://miyakojimabunkazai.jp/
 ※「綾道」配布先 市内各庁舎、博物館、図書館、地下ダム資料館など

(モリヤダイスケ)
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2019年03月08日

39冊目 「シマコイ・チャンプルー」



えっと、オキナワ・宮古の推し本を紹介してゆく「島の本棚」です。
今月は不肖・モリヤが代打でございます。そして記憶では「島の本棚」では初めてとなるコミックスのご紹介です。たまには毛色の変わったものがあっていいですよね?。

「シマコイ・チャンプルー」。タイトルを見ても判る通り、このコミックスは沖縄が題材です。それも舞台は宮古島。そして女性向けの恋愛ものです。個人的に特にコミックスはボーダレスで読む派なので、あまり気にせず読んでしまうおっさんです。
実は舞台が宮古島なのには理由がありまして、「シマコイ・チャンプルー」の作者である華谷艶(はなや えん)さんは、宮古島のご出身なのです。現在は内地で活動されているようなのですが、コミックスの“かえし”にも「故郷の宮古島をモデルに描きました。一生の宝物です」とメッセージを書かれているほど。
なので、ストーリーもさることながら、モデルとなったロケ地はどこだろうと、妄想する楽しみもあったりします(実際にはフィクションなので明確な位置は作者にはか判りません)。

簡単にストリーを紹介しておくと、南の島で生まれ育ったヒロインのまゆ。普通の穏やかな結婚を夢みていたはずなのに、ユタ(巫女)のお告げで島一番のウヤキヤー(お金持ち)の上地家の兄弟(もちろんどちもイケメンである)、どちらかと結婚することになり、まゆはどちらかを選ばなくてはならない。長男・健勝(ケンショー)は超がつくほどのスカシャー(女ったらし)だけど、実は元カレ(学生の時にちょっと付き合っていた)。次男の陸(リク)は地味めで物静かな性格の同級生。まゆとしてはどっちも嫌!というところから物語はスタートしますが、健勝と陸のふたりにいいよられて揺れ動くまゆ。そんなある日、ふとしたことから弟・陸に腕をつかまれた瞬間、甘い痺れがビリビリとまゆに流れ込む…。このあたりはちょっとスピリチァルな設定ですが、こんな感じの「ビリビリ痺れる最南端マリッジラブ」(コミックスに書かれている煽り文句を借りて来ました)なのです。
尚、全一巻ですから、さくっと読めます。

本文中にはちょいちょい宮古口(みゃーくふつ)が登場します(とはいえ、簡単な単語ばかりですが)。宮古口の知識がちょっとあれば、ニヤついてしまうかもしれません。あと、「うずまきパン」が出て来ます(まゆの好物として)。ただ、残念ながらパッケージは島産のものではなく、本島のオキコ製品のパクリなのですがね(絵に描かれた雰囲気のパッケージだけで判別したことは、うずまきパン研究家の矜持と云っておきます)。
非常に簡単ではありますが、御獄についても説明され、舞台のひとつとなっていてます。ただ、こちらはさすがにどこの御獄がモデルなのかまでは判別できませんでした。なにせ宮古の御獄は数千単位で存在していますからね。

余談にして手前味噌ですが、作者の華谷艶さん。
実は「ポストカードアート展 ぴん座」に参加していただいたことがあります。2013年の第6回にイラストで参加していただきました。商業誌で活躍されているプロの漫画家さんに参加していただけるとか、老若男女・プロアマを問わない「ぴん座」冥利に尽きる素敵な出来事であり、個人的にも好きな雰囲気の作品だったのですが、参加告知が不十分だったせいかクリティカルを得られなかったのは悔しかったです。

「シマコイ・チャンプルー」
作者 華谷艶
発行 小学館フラワーコミックス(Cheese!)
発売 2013年11月26日
ISBN 9784091356734
試し読みはコチラ

※     ※     ※     ※

【大募集中!】
アナタの大好きな一冊!
オキナワ・宮古の「推し本」を教えてくれませんか?。

本の世界は広く、深く、とても大きな世界です。
たとえ、どんなに凄い愛書狂-ビブリオマニア-であっても、そのすべてを読みつくすことなど、到底できることはありません。

「島の本棚」では(沖縄、宮古の)島の本を中心に紹介しています。
広い広い本の世界を、“島”というジャンルで縛ってみても、本当に数多の本が出ています。
いえいえ、それだけではありません。日々刻々と生み出版(だ)され続けているのです。
近年は、インクと紙の本だけでなく、デジタルなスタイルの本も誕生し、人々の叡智を潤しています。

本の内容もさまざま。随筆、小説、コラム、詩、論文から、周年誌に写真集や紀要に名鑑となんでもござれ。もちろん、新刊から旧書。ベストセラーから稀覯本まで。ありとあらゆるジャンル・スタイルの本から、アナタの推したい本を教えて是々非々で下さい。

そんなあまりにも巨大な世界(島の本限定)に挑むには、多くの人たちの力が必要だと、「島の本棚」では考えています。ぜひとも、本が好きなアナタのお力を借してほしいと熱望するのです。
アナタが選んだ、人に薦めたくなる島の推し本を、ATALS Blogで紹介してみませんか?
ひとつひとつは小さな一歩、一冊ですが、多くの叡智を集めて積み重ねて、たくさんの人たちにお薦めして、島の本の環を広げて、みんなで楽しみをわかちあいませんか?。

オトナの読書感想文こと、推し本紹介者を積極的に大募集したいと思います。
自薦・他薦は問いません。本好きのアナタと一緒に「島の本棚」を作って行きたいです。

島の本棚 -primary bookmarker-
まずがーと、一冊。
オススメしてみませんか?
ご協力、よろしくお願いいたします!
詳しくはメールにて!
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 ※(a)を@に置き換えてください

◆新旧さまざまな島の本を紹介している「島の本棚」のこれまで。
※2015年~2018年まで
金曜特集 「島の本棚-2017-」特番
金曜特集 「島の本棚-2018-」特番
  


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2019年02月08日

38冊目 「伊良部町商工会のあゆみ」



お久しぶりの「島の本棚」です。別館の「シネマ de ミャーク」(writer:久保喜広)もスタートしたりして、「島の本棚-primary bookmarker-」 も2.0へバージョンアップしました(特に大きな変化はありません)。
今回の「島の本棚」の選者は、「アナタが選んだ、人に薦めたくなる島の本をATALS Blogで紹介してくれませんか?」という投げかけに手を上げてくれた、伊良部島在住の“tsuki”さんです。なんとも興味深く、とても面白い選書をしてくれました。これは期待せずにはいられません!。

※     ※     ※


オトナの読書感想文大募集をされている時、たまたま見つけた記念誌。これも島の本になるのかな、と思い、小学生以来書いた記憶のない感想文を書いてみることにしました。

この「商工会のあゆみ」は、伊良部町商工会の設立10周年の記念事業の一環として発刊されました。10年の商工会活動の記録・報告はもとより、当時の伊良部町の暮らしの様子や施設等を写真や図解で紹介しています。10年間の活動もカラー写真で掲載してあり、商工会活動にかかわる当時の新聞の記事の切り抜きも多くみられます。
現在、伊良部町商工会は宮古島市伊良部商工会と名称を変更して伊良部地域商工業の発展をめざして青年部、女性部とともに活動を続けています。
 
商工会が発足してから10年の間にどのような行事がなされていたのか、と各年の記録をみていて、何度も目にするのが珠算大会です。
商工会が設立した3年後より毎年伊良部町珠算大会が行われています。新聞の記事を見ていると上位成績者の欄に知人の名前がありました。彼女の話によると、当時伊良部島の珠算は盛んだったそうです(たいていの島の子どもたちは、珠算か習字を習っていたとか)。彼女も小中は島の珠算教室に通い、高校生でも珠算部だったそうです。
伊良部町の大会で上位者は宮古島での大会に参加するのですが、その知人も宮古島大会を制して沖縄大会、九州大会の出場経験者。
印象深かった話は、ある年の宮古島での大会のこと。開催当日に台風の影響で船が欠航。しかし、前年度の優勝旗を持っていたので、彼女は何としても海を渡らなければならないといわれ、大会関係者か島の人の計らいで長山港から小さい船を出港することになったそうです。荒波を越え、無事に優勝旗をとどけ、とてもひどい船酔いの状態で大会に参加したということでした。伊良部大橋が開通した今となってはもう二度とできない貴重な体験です。

活動の記録写真を見ているとある印象的な一枚に視線はくぎ付けになりました。それは海上カラオケ大会。昭和61年の海神祭のアトラクションで佐良浜漁港の海の上に舞台を作ってのカラオケ大会が行われていたようです。さすがパヤオ発祥の地!。
伊良部島の人は唄がうまいのです。皆さんプロ並み。海風にのってきこえる歌声、想像しただけでワクワクします。
実は昨年、青年部が第1回目となる事業所対抗チャリティーのど自慢大会を開催しました。今後2回、3回と続いていくのなら、ぜひもう一度海上の舞台の上で開催してほしいと思うのは私だけでしょうか。
 伊良部商工会青年部が初事業所のど自慢開催へ(宮古新報 2018年9月29日)
最後に何度も繰り返しページをめくってしまったのは、全体の10分の1の量を占める協賛広告です。
100社ほどさまざまな職種の社名が並んでいます。伊良部島、宮古島はもちろん沖縄本島からも多数協賛いただいています。おそらく伊良部島とかかわりのある事業所ばかりなのではないでしょうか。
地元の人がおいしい!と言っていた今はなきレストランの名前も発見しました。知っている人が見れば懐かしい名前がずらりと並んでいるのかもしれません。
私はこんな会社やお店があったのか、と驚いたり楽しんだり。今と昔の変化や不変に思いをはせながら何度も眺めました。

設立から今年で37年。現在も伊良部商工会は積極的に活動をしています。その礎になった10年のあゆみ。先駆者の熱い思いを引き継いでこれからも50年誌、100年誌と変わりゆく伊良部島の歴史を刻んでいってほしいと思います。

【書籍データ】
設立10周年記念誌 商工会のあゆみ
発行所 伊良部町商工会
発行年 1994年5月
発行者 伊良部町商工会会長 奥浜幸雄
印刷製本 さらはま印刷  続きを読む


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2018年12月14日

37冊目 「トロイメライ」



またまた登場しました!。お久しぶりです!。
半年に一度あらわれる、阿倍ナナメでございます。
ちょうど1年前。池上永一の『テンペスト』をご紹介させていただきました。相も変わらず、この阿部ナナメ。琉球王国の世界に惹かれておりまして、今回も池上永一の作品をチョイス。
『トロイメライ』をご紹介させていただきます。
こちら、一見、『テンペスト』とは関連のなさそうなタイトルなのですが、実は池上永一が描く琉球サーガ(散文物語)三部作と呼ばれるうちのひとつでして、舞台は『テンペスト』と同じ頃。なので多少はテンペストとリンクしたりしてます。

ここで少し、物語の舞台となった時代のおさらい。
ペリーの黒船来航、新撰組の設置、大政奉還、琉球処分といわゆる幕末のあたりです。
『テンペスト』では、首里城王宮の華やかな色鮮やかな世界が描かれておりましたが、『トロイメライ』では、城下の庶民たちの生活が描かれてます。

門中墓を盗まれた!。借金を踏み倒された!。親に売られた!。人を騙した!。門中墓には入れてやらない!。守礼之邦と呼ばれる琉球が守礼どころではない騒ぎです。

庶民の大騒ぎに申口方(もうしくちかた・財務以外を取り締まる役所)の平等所(ひらじょ・裁判所と警察の役割)が出てきたり、冊封使が絡み政務の長である三司官の属する評定所がでてきたり、薩摩や中国の間でドタバタしている王宮もてんやわんやです。

その頃の琉球は貧乏で厳しい生活のはずなのに、たくましい限りに楽しんでる。
おおらかに。
生も死も全てを包み、悲しみも喜びも受け入れて、たくましく。
なんて、しなやかなんだ。
役人のワガママを聞いてくれる料亭があって、役人がくすねてきたピーナッツと古酒で王だけが味わうことのできる高級料理のジーマミドーフを作る。役人だけで食すのではなく、誘い合って分けあって食べる。食通役人は心が広い(笑)。
生活苦で子どもを奉公に出す親。生きていくのに奉公と言う名の身売りをする子どもたち。理解しているものの、辛い未来。それでも前を向いて歩いていく。
人を恨まず環境のせいにせず、ただ前を向く。前を向かせるために振る舞われるフーチバージューシー。
野辺送りでは、サーターアンダギー、カマボコ、餅、三枚肉、昆布巻き、卵焼きが備えられて死者からのお裾分けだと、みんなで食べる。

どんなときでも分けあって。
あぁ。
沖縄だ。正しく、沖縄だ。

『テンペスト』では、「アララガマ」だと表現したけど、『トロイメライ』はなんだろ・・・。
「かなしゃがま」、かな。
人は愛しい。偉くなくても、お金がなくても、間違っても、正しくても。
まぁ、何が正しくて間違ってるかなんて、わからないけど。愛しい生を生きている。
生きるって、しなやかでないとな~っと漫然と思う。
根が張ってないと、しなやかになんて生れない。しなやかだから折れずに、踏ん張れる。
あれ?、「かなしゃがま」は、しなやか?ワケわからなくなってきた(笑)。

創作なんだけど、絶対あっただろうなという世界に虜にされてます。
やっぱり琉球王国が好きだ。
近いうちに、もうひとつも読破してやるぞとは心の内に・・・。

〔書籍データ〕
トロイメライ
著者 池上永一
発行 角川書店
発行日 2013年10月25日
ISBN 978-4-04-101039-6

◆阿部ナナメ紹介作品
 15冊目 「てぃんぬに 天の根 島に生きて」
 21冊目 「ぼくの沖縄〈復帰後〉史」
 27冊目 「テンペスト」
 33冊目 「カフーを待ちわびて」

◆池上永一作品の紹介
 27冊目 「テンペスト」
 28冊目 「ヒストリア」  


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2018年10月12日

金曜特集 「島の本棚-2018-」特番



新旧さまざまな島の本を紹介している「島の本棚」。今週は特番の総集編です。
2015年10月から月イチでスタートた「島の本棚」では、先月までに36冊の本を取り上げてきました。2017年には特番として、それまでの17冊を振り返りましたので、今回はその2018年版として18冊目から36冊目までを総ざらいしてみたいと思います。

18冊目 「太陽の棘」
19冊目 「水の盛装」
20冊目 「読めば宮古」 しづく

21冊目 「ぼくの沖縄〈復帰後〉史」 阿部ナナメ
22冊目 「狂うひと」
23冊目 「キジムナーkids」
24冊目 「楽園の花嫁 宮古・来間島に渡った日々」 上地幸子
25冊目 「青青の時代」

26冊目 「ウプシ 大神島生活誌」
27冊目 「テンペスト」
28冊目 「ヒストリア」
29冊目 【特別編】第1回宮古島文学賞
30冊目 「あの瞬間ぼくは振り子の季節に入った」 宮国優子

31冊目 「平良市史第9巻 資料編7(御嶽編)」 モリヤダイスケ
32冊目 「沖縄の水中文化遺産―青い海に沈んだ歴史のカケラ」 ツジトモキ
33冊目 「カフーを待ちわびて」 阿部ナナメ
34冊目 「南琉球宮古語伊良部島方言」
35冊目 「琉球 美の宝庫-図録-」 宮国優子

36冊目 「上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀」

17冊目までをまとめた2017年の特番はこちら。

金曜特集 「島の本棚-2017-」特番

リスペクトという便利な言葉で包み込んだ、「島の本棚」の前史的な余談もあわせて掲載されていますので、お時間があればこちらもチェックしてみてください。


本の世界は広く、深く、とても大きな世界です。
たとえ、どんなに凄い愛書狂-ビブリオマニア-であっても、そのすべてを読みつくすことなど、到底できることはありません。

「島の本棚」では(沖縄、宮古の)島の本を中心に紹介しています。
広い本の世界を“島”というジャンルで縛ってみても、本当に数多の本が出ています。
いえいえ、それだけではありません。日々、生み出版(だ)され続けているのです。
近年は、インクと紙の本だけでなく、デジタルなスタイルの本も誕生し、人々の叡智を潤しています。

そんなあまりにも巨大な世界(島の本限定)に挑むには、多くの人たちの力が必要だと、「島の本棚」では考え、ぜひ、アナタのお力を借してほしいと熱望するのでした。
アナタが選んだ、人に薦めたくなる島の本をATALS Blogで紹介してくれませんか?
ひとつひとつは小さな一歩、一冊ですが、多くの叡智を集めて積み重ねて、たくさんの人たちにお薦めして、島の本の環を広げて、みんなで楽しみをわかちあいませんか?。

オトナの読書感想文こと、推し本紹介者を積極的に大募集したいと思います。
自薦・他薦は問いません。本好きのアナタと一緒に「島の本棚」を作って行きたいです。

島の本棚 -primary bookmarker-
まずがーと、一冊。
オススメしてみませんか?
ご協力、よろしくお願いいたします!
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2018年09月14日

36冊目 「上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀」



先月は、内地でも沖縄でもお盆の月でした。東京では、お墓参りや盆踊りをしますね。宮古島のお盆については、ATALAS Blog 「宮古島四季折々」「すとぅがつ(旧盆)」をご覧ください。沖縄や宮古では、今でも旧暦にあわせ、内地と違った様々な風習があります。本当にたくさんの準備をして皆でご先祖様をお迎えし、もてなし、またお見送りします。祭祀、というと大げさに感じますが、当たり前の日々に先祖崇拝の精神が根付いているようです。

今回は、故・上井幸子さんが70~80年代に宮古島で撮影した写真を、写真家の比嘉豊光さんが編集し、もろさわようこさんの文章が添えられた写真集『上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀』を紹介します。
まず驚くのが、圧倒的な写真の数です。島尻、狩俣の祖神祭や、大神島の運動会、佐良浜のユークイやニガイ、島の暮らしや人々の様子など200ページ以上に亘り写真が掲載されています。この時期に宮古島にいた人なら懐かしく思うことでしょう。そして、今はもう変わってしまった風景にもう一度会えると思います。

上井幸子さんは、1934年静岡県出身の写真家です。本書の経歴を見ると、美大を出て建設省の研究所に勤め、結婚し子をもうける。その後離婚し、働きながらアマチュアとして写真を始める。1965年委集中豪雨被害を受けた福井県西谷村を撮影し、写真集刊行、日本写真協会賞を受賞しています。その後、1972年から沖縄、宮古島を撮りはじめたようです。
もろさわようこさんは、1925年長崎県出身の女性史研究家で、「生家が没落し、女中奉公をしながら小学校を卒業、旧制専門学校入学者検定合格。陸軍士官学校の事務員、地方紙記者などを経て、女性史研究家となり、庶民世界での近代女性史に関する著書多数、女性解放運動に力を注ぐ。1969年、『信濃のおんな』で毎日出版文化賞受賞。」(wikipediaより)

お二人とも当時の女性としてはものすごく先進的で、才気溢れる生き方だと思います。内地では、女性の生き方が大きく変わる時期だったかもしれません。一方、1970~80年代の宮古島の祭祀は、まだタブーが厳しく女性といえども他所からきた人間を拒絶することも多くあったそうです。そのような状況下で、ヤマトからきた「まれびとさながら」な二人の女性が、宮古島の女性が司る祭祀空間に赴き、島のオバァ達と対話する。なんてエキサイティングなのでしょう!そこで生まれる驚きや葛藤、まなざしと考察が、上井さんの写真ともろさわさんの文章で真に迫って表現されています。特に、島のおばぁが「性」を語るくだりとか、深いなぁ。ときにジェンダーやフェミニズムの視座から、ときに戦争や近代化の歴史的側面から、同じ女性として、違う人間として、真摯に向き合う姿はとても感動的で美しいのです。

本書の追記に、2011年秋に上井さんの訃報を知った際のエピソードがあります。上井さんの身寄りの方からもろさわさんに電話があり、遺品整理で写真フィルムが箪笥いっぱいに残されていて、処分について相談したいとのことだったそうです。その時、もろさわさんがとっさに言った言葉は、「ああ!それ、幸子さんのいのちです」。
その後、写真家の比嘉豊光さんら多くの人の協力のもと、本書が出版されたことに、敬意と感謝の念が堪えません。本書解説では、今年93歳を迎えたもろさわさんが、2013年に赴いた那覇での辺野古基地問題の女性集会のことから書き始めています。当時を懐かしむのみならず、現代の私たちと繋がり続ける一冊です。

〔書籍データ〕
上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀
写真 / 上井幸子 文/もろさわようこ 写真編集/比嘉豊光
発行 / 六花出版
発売日 / 2018/5/15
ISBN / 978-4-86617-055-8  


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2018年08月10日

35冊目 「琉球 美の宝庫-図録-」



お久しぶりです。
宮国優子@東京です。

なぜ「@東京」とフォーカスしたのか、その理由は今回の本にあります。

じゃじゃーん。
「琉球 美の宝庫」です。

この夏、東京ミッドタウンでのサントリー美術館で開催されている展覧会「琉球 美の宝庫」の図録を、今回はご紹介させていただこうと思います。

コチラのHPにあるとおり「本展覧会では、鮮やかな紅型に代表される染織や、中国・日本から刺激を受けて描かれた琉球絵画、螺鈿・沈金・箔絵などの技法を使ったきらびやかな漆芸作品を中心に琉球王国の美をご紹介します。」とのことなので、非常に濃い内容になっています。

2時間近く展覧会を鑑賞しましたが、膨大な情報量でクラクラしました。

そこで、図録です!

海上王国、“万国津梁(世界の架け橋)”と銘打っているだけに、日本の名だたる資料や美術品がずらりとそろっていました。「国宝 琉球国王尚家関係資料」、「白地流水蛇籠に桜葵菖蒲小鳥模様衣裳」、「花鳥図 山口宗季(呉師虔)筆 1715年」、16~17世紀「朱漆椿密陀絵沈金椀」などなど、個人蔵も含めた日本全国から集められました。

個人的に、萌えたのはこのふたつ。
日本民藝館所蔵の「宮古上布」と、「鎌倉芳太郎が残した緻密な調査ノート」です。
キャー!

今回は、琉球の美術を総合的にとらえるためでしょうか、第1章の「琉球の染織」から、エピローグ「琉球王国の記憶」までの5つに別れています。

ちなみに構成はこちら。図録ももちろんこの展示の流れに沿っています。

第1章 琉球の染織
第2章 琉球絵画の世界
第3章 琉球国王尚家の美
第4章 琉球漆芸の煌き
エピローグ 琉球王国の記憶


図録って、幸せを詰め込んだようなものかもしれません。
私は持っているだけで幸せです。
美術品に関しては、もう眼福!

展示の時は、きちんと読めなかった作品解説もゆっくり読むことができます。今回は、関連年表がついていることも私にとっては、よだれもんでした。資料的価値の高さは言うまでもありません。

こういう資料や美術品が一同に並ぶ機会は、そうそうないと思うので、サントリー美術館さまには、本当にブラボーと拍手を送りたいです。

ちなみに、別日に一人で行った娘は、螺鈿細工がお好みだったようです。さすがJK。キラキラしたものがいいものね…。
おばはんの私は、江戸上りに行列図のほうがドキドキしました。この胸のときめきをせめて図録を通して見ていただけると嬉しいです。

〔書籍データ〕
琉球 美の宝庫-図録-
編集・発行/サントリー美術館
発売日/2018
サイズ/B5サイズ(全270ページ)

購入はこちら(一般書店では販売していませんが、通販があります)

『琉球 美の宝庫 -展覧会-』
場所/サントリー美術館
   東京都港区赤坂9-7-4東京ミッドタウン・ガレリア3階
会期/2018年7月18日(水)~9月2日(日)
時間/10:00~18:00(金・土は20:00まで開館) 火曜休館

サントリー美術館のTwtterによると、2018年8月21日のBS日テレの番組、『ぶらぶら美術・博物館』(21時~22時)にて、「琉球 美の宝庫」展が紹介されるそうです。   


Posted by atalas at 12:00Comments(0)島の本棚

2018年07月12日

34冊目 「南琉球宮古語伊良部島方言」



東京は梅雨が明けて夏日の続く7 月です。今月の「島の本棚」はこの3月に刊行されたばかりの新刊書、下地理則著『シリーズ記述文法1 南琉球宮古語伊良部島方言』を紹介します。先日、伊良部高校の入学生の募集停止のニュースがありました。刻々と変わる島の状況を考えながら読みました。

本書の初めには、編集委員会より「シリーズ刊行にあたって」という文章が載っています。それによると、本シリーズは、「東京外国語大学のアジア・アフリカ言語研究所の研究活動の一環として企画され」、「いわゆる少数言語」、特に「これまでまったく,あるいは十分には調査研究されてこなかった言語(もしくは方言)」を対象に扱っていくそうです。編集委員には世界各国の言語を扱う著名な先生方が名を連ねています。そんなグローバルなシリーズの第1弾が宮古の伊良部島方言って、すごいことですね!
また、「本シリーズは専門性を高く保ちつつも、当該言語の専門家以外にも理解できる文法書を目指している。」とあります。執筆者が現地に赴き、「文法全体」と「格闘」を続けることの重要性が語られています。つまり、少数言語を研究するとき、話者から聞き取りはできても、体系はすぐにはわからない。その言い方が正しいか不自然か、言えるのか言えないのか、を教えてもらい、文法規則を探ることが言語研究者の役割なのです。それはもちろん簡単なことではなく、「文法記述の営みには終わりがない。」といいます。

さて、著者の下地先生の編著は2017年1月の「島の本棚」でも紹介させていただきました。(『琉球諸語の保持を目指して-消滅危機言語めぐる議論と取り組み』)そこに、少数言語が消滅していくことは避けられないとしても、
“記述言語学者たちは、消えつつある危機言語を体系的に記述・記録するスキルがあり、それを実践する責任がある。”
と書かれています。その責任を果たされていることに敬意を表します。

300ページを超える内容は、確かに専門性が高く難解にみえますが、例文にある「サトウキビ倒し」「イモの葉っぱ」「彼は平良にいる。」などの生活語彙に親しみを感じます。言語の勉強が好きな人には読み応えがあるでしょう。伊良部島方言ネィティブの人は、むしろ脳内再生される音声から発音記号を逆に学ぶことができるかも!?

最後に、下地先生によるあとがきが本当に素晴らしいので、ぜひ本を手に取ってご一読ください。
現在の言語学業界の周りでは、研究領域の細分化が進んで、各専門(文法とかアクセントとか各品詞とか)の研究者は他に関心を示さないこともあるそうです。また、仮説の検証に役立たせるために特定の現象のみを取り上げたり、その場しのぎをしたり、そもそも深く考えずにフィールドにやってくる人もいるとか(以上は、私の勝手なまとめですので、詳しくは本書を読んでください)。そういうのはたぶん言語の業界だけではなく、多くの研究者がうなずくところとだと思います。

“端的にいって、筆者はそういう現在の言語学の主流にうんざりしている。”
おお!、そう言い切って書いてしまう勇気!。続いて、下地先生は、もともと人類学志望であり、そういう入口の経緯もあって、「言語そのもの」「内的一貫性」に関心があるといいます。

“一度立ち止まって言語全体を俯瞰することは重要である。言語体系は、個々のパーツ(現象)が有機的に繋がっていて(中略)ゆっくりと変容していく”
“これらの事実に気づく唯一の方法は,実際に自分で言語体系全体を扱って、ひとつの記述モデルとして示すことである。”

そうして伊良部島方言と悪戦苦闘した結果を、“認めなければならないことがある。伊良部島方言は本当に手強い相手で,本書によってこの言語体系を満足いく形で示せたとは到底思えない。完敗である。”と表現しています。

“言語に対して謝辞をいう研究者はこれまでいなかったと思われるが、「対戦相手」の伊良部島方言に対して深く感謝の意を表したい。あんたは最強だ。これからもよろしく。”
こんなに胸の熱くなるあとがきもそうありません。
そして明かされるのは、下地先生のお父様が伊良部の人で伊良部島方言を母語とし、しかし下地先生自身はその方言を聞くことも話すこともなく育ったということ。

“父から継承できなかったものを、今更ながら継承したいと考えたからである。その試みに賛同し、惜しみなく協力してくれた父に、本書を捧げる。”

この本が発する熱さと強さは伊良部の情熱そのもの。小さな島の果てしなく豊饒なことばの世界に旅立てる一冊です。

〔書籍データ〕
シリーズ記述文1 南琉球宮古語伊良部方言
著者 /下地理則
発行/くろしお出版
発売日 / 2018/3/26
ISBN /978-4-87424-760-0  


Posted by atalas at 12:00Comments(0)島の本棚

2018年06月08日

33冊目 「カフーを待ちわびて」



お久しぶりです。
阿部ナナメです。 (編注:島の本棚には半年毎に顔を出しており、今回が通算4度目)
今回は原田マハさんの『カフーを待ちわびて』をチョイスしてみました。

なんちゃら大賞と名が付くものを、あまり読んでいなくて去年の夏ごろからあえて選んでいて出会いました。ちなみにこれは第一回日本ラブストーリー大賞でした。
文庫本の発行が2008年。10年も原田マハ作品を読まなかったことを後悔。

なぜ読まなかったかというと、作者名の『マハ』なんですよね。マハと聞いて、自由奔放な物語を書く人なのかと思ってました。マハですよ?マハ。マハと聞いたらイタリア男の女性バージョンって感じじゃないですか。明るく奔放で自由で心の動きとか読めなさそうで。どうしてもジローラモが浮かんじゃう。小説もチャラそうだしね。
そんな感じで遠くにおいてた原田マハさん。

『カフーを待ちわびて』
カフーって、いやもう沖縄が舞台じゃん。
読むしかないよね。と初めましての原田マハ作品を読了。

ちくしょう。いい感じに裏切られた。

奔放さの欠片はなく、慎重に慎重に。心の赴くままではなく気づかって気づかって。心が動くさまが伝わる表現。
そうやって書かれた物語は、臆病な島の青年と黒いラブラドールのカフーとの日常から始まる。青年が営む祖母から引き継いだ商店。カフーの首に下がる貝殻の音。家の裏のユタのおばあ。カフーと遊ぶ白浜のビーチ。親指以外はひとつになった右手。デイゴの小枝。居なくなった母親。ユタのおばあの『カフーは来たかね?』。ある日届いた手紙の差出人『幸』。いちいち切り取れる場面。
キューって感じではなく、ふわぁとした感じ。どう言えば伝わるかなこれ。穏やか?暖かい?まあるい?とにかく、色と雰囲気が伝わる。ふわぁとね。
イタリア感は全くなかった。

ちくしょう。飛行機の通路側で読むんじゃなかった。

『カフーアラシミソーリ』と大切な人を思い口にする言葉が、グッと胸に来る。
苦しくて苦しくてどうしようもないのに、自分以外のために『カフーがありますように』と紡ぐ、優しい物語だった。

ラブストーリー大賞、なるほどね。原田マハすごいわ。勝手にチャラそうなんて思ってすみません。もうすぐ46才になるおばさんの、涙腺を久々に刺激した作品でした。また言いますが、原田マハすごいわ。

〔書籍データ〕
カフーを待ちわびて
著者 /原田マハ
発行/宝島社文庫
発売日 / 2008年5月12日(文庫) 2006年3月20日(上製本)
ISBN /978-4-79666-352-6(文庫) 978-4-7966-5212-4(上製本)


【阿部ナナメ@島の本棚】
15冊目 「てぃんぬに 天の根 島に生きて」(2016年12月09日)
21冊目 「ぼくの沖縄〈復帰後〉史」(2017年06月09日)
27冊目 「テンペスト」(2017年12月08日)

【原田マハ】
18冊目 「太陽の棘」(紹介者:江戸之切子)  


Posted by atalas at 12:00Comments(0)島の本棚