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2015年11月27日

その7 ヨシさんのブーンミ

その7 ヨシさんのブーンミ

上野のヨシさんはブーンミの達人だ。ブーンミとは宮古上布の材料となる苧麻糸(ブー)を績(う)むことで、いい糸を績めるようになるまでには何十年もかかる。一番熟練するのは、それこそ80代というから、ヨシさんは今まさに旬。ブーンミのおばあたちが年々少なくなる中、宮古上布界になくてはならない存在なのだ。

友達の家にマグ持って回って
みんな集まって泊りがけで遊んだよ
あれは楽しかったよ~


その7 ヨシさんのブーンミヨシさんが小学校6年のとき、日本は終戦を迎えた。戦争直後の混乱の中、ヨシさんは高等科で2年学び、食料も物資も不足している時代に青春を迎えた。
年頃の女子たちの何よりの娯楽は、近所に住む仲間たちとのブーンミだった。「マグ」と呼ぶカゴを持って、今日は誰の家、明日は誰の家と、交代で泊り歩く。仲良しが集まって、ブーンミしながらの「とぅんから」の夜。唄を歌ったり夢を語ったり同世代の男子たちの品定めをしたり。若者らしいときめきに胸を弾ませた。遊び半分とはいいつつも、ブーンミの腕も切磋琢磨の中で磨かれる。
戦時中は、贅沢は敵という政策で、織ることすら禁じられていた宮古上布にも復活のきざしがみられた頃でもあった。
【ヨシさんと畑~夏でも冬でも6時前には起きて午前中は畑仕事が日課。畑には使いやすい種類の苧麻を育てている】

上等な糸は荷川取あたりに売りに行く
売れない糸は自分たちの着物にしたよ
兵隊さんの靴下や手袋も着物にしたよ


上野では、たいていの家で畑の一角でブーを育て、ブーンミをしていた。上布になるような細くていい糸は、織り手の多い荷川取でよく売れた。上野や下地、平良、伊良部は経糸(たていと)の産地、城辺は緯糸(よこいと)の産地だったという。
一方、若い娘たちの未熟な糸は家族の着物になった。食料と交換に置いて行った兵隊さんの靴下や手袋は、ほどいて木綿の糸にして、ブーの経糸と木綿の緯糸で布を織ったりもした。

塀の石積みのすき間に棒をさして
糸を十何メートルも長く伸ばしてからバフに巻く
道が作業場になったよね


その7 ヨシさんのブーンミブーンミで、1本の長い糸ができると、糸車でより掛け、長さをそろえ、丸く束ねる。「カシ」と呼ばれるひと玉の糸の長さは600メートル。カシは染色の前に糸巻(バフ)に巻き取るのだが、この作業には、糸を十分に伸ばす広いスペースが必要になる。家の前の道は恰好の作業場となった。天気のいい日には、石垣に沿って長く伸ばされる苧麻糸の白く輝く光景が、村のあちこちで見られたにちがいない。
【糸を績む手~作業はすべて指先の感覚で行う。触っただけで糸の状態がわかる】


昔作った着物はもう残ってない
なんでかって?
こども4人のおむつになったよ(笑)


ヨシさんは、結婚して4人のこどもに恵まれた。着物はみなおむつになった。両袖で2枚、前身頃で2枚、後ろで2枚、1枚の着物から6枚のおむつがとれた。苧麻のおむつは洗えば洗うほど柔らかく、上等だったよとヨシさんは笑う。
しかし、末っ子が3歳のときに夫が他界。4人のこどもを女手ひとつで育てなければならなかった。ヨシさんは、「ブーでは食えない」から平良へ働きに出た。
その7 ヨシさんのブーンミ
【極限まで細い手績みの糸~たまたまそこにいた時に、すぐにブーンミできるようにと、家の中のあちこちにブーがある】

年間1万反あまりが生産され最盛期を迎えた大正時代、娘が2人、機を織ると家が建つといわれた。しかし、日本復帰の頃には1000反弱、80年台に入ると300反と生産は激減。上布で女性が自立することは難しくなっていた。
ましてやブーンミを取り巻く環境はさらに厳しい。上布1反分に必要な糸の長さは、約30キロメートル。早い人でも半年がかりで、しかもその手間賃はとても安い。幼いこどもたちを抱えて、続けられる仕事ではなかった。

今、上布の生産量は年間数十反とさらに減少しているが、ヨシさんの績む上等な糸は織り手さんたちからひっぱりだこだ。
「畑にもいくし、いろいろ用事もあるから、一日中やってるわけにはいかないけど」と言いながらも、部屋のあちこちにマグを置き、ちょっとした合間に手を動かしている。ブーンミのおばあは、100歳まで現役なのだ。

※宮古上布の織り手さんと、砧うちの話をこちらで紹介しています。

《第四金曜担当》 きくちえつこ
池間島在住、足かけ 4 年のナイチャー。
宮古で出逢った「かいまい くいまい」から聞いた、ちょっと「へえ~っ!」となる話を、ゆる~ゆる~っとご紹介。
考察も、オチも、ありません。ごめんなさい・・・。

『かいまい くいまい』 = 「あの人やら、この人やら」



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