第肆號 「招かざる客」
宮古島で東方大サーカスの公演が始まりしばらくした頃、もうひとつの訪問者が宮古島へと近づいていました。
初回(「宮古島への訪問者たち」)で触れた、台風コラです。
1966年8月31日にグアム島の西海上で発生し、徐々に発達しながら太平洋を西へと進んできました。当時の記録によると、9月5日10:01に最も気圧が低くなり、928hPaに達しています。
【宮古島市総合博物館所蔵のレダー画像】
今の感覚で考えれば、これだけ大きな台風が近づけば、準備の様子や避難の呼びかけで新聞紙面は大騒ぎですが、宮古島の新聞には台風接近を伝える記事は載っていません。台風の予報が全く載らない訳ではなく、例えば同年6月27日付けの宮古時事新報には、小さな記事ながら「今夜半から台風4号キットが接近のおそれ」とあり、宮古島気象台のレーダー観測に基づく予報と注意の呼びかけについて触れています。しかし、台風コラに関しては事前に報じた記事は見つかりませんでした。
石垣島の八重山毎日新聞には、9月4日付で台風コラの接近を伝える記事が載っていました。しかし那覇発の記事で、内容はといえば淡々と数字や予報を伝えるのみで、どこか他人事です。「台風はしばらく東北東か北西に進み」という予想進路から、先島へ台風は来ないと考えられたのではないかと思われます。ちなみに、同記事のすぐ下には、台風接近を知ってか知らでか、15日から予定されている東方大サーカス八重山公演の広告も載っていました。
果たして、結論から言うと東方大サーカスは予定通り八重山公演を始めることはできませんでした。新聞記事のとは裏腹に、台風コラは宮古・八重山を巻き込み大きな被害をもたらしたのです。気象庁のサイトに載っている台風18号すなわち台風コラの説明には
"9月5日9時頃宮古島に達し、この頃最も発達した。(中略)台風は宮古島付近をゆっくりと進んだため、宮古島では長時間にわたり強風と大雨に見舞われた。宮古島(沖縄県平良市)では最大風速60.8m/s、最大瞬間風速85.3m/s(日本の観測史上1位)を観測した"(
引用元)
台風直後の宮古島で出版されたある本があります。「恐怖の38時間-第二宮古島台風の記録-」と第されたその本に、現在も破られていない観測史上1位の最大瞬間風速が吹いたその時の宮古島気象台が描かれています。
次回はこの本を紐解きながら、台風コラに襲われた宮古島の様子を見ていきたいと思います。
一柳 亮太(ひとつやなぎ りょうた)
1978年生まれ。神奈川県川崎市出身。2001~2015年にかけて沖縄に在住。タイムス住宅新聞「まちの記憶」連載(城辺の「瑞福隧道」について書いたりしました)など、ライターとしての活動を行うも、現在は東京で会社員。興味関心は乗り物一般、ちょっと昔の出来事、台湾など。
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