毎年夏が近づくと、そこかしこで必ずと言っていいほど交わされる会話があります。
「今年のお盆はいつからか?」
これ、沖縄県外のほとんどの地域の人が聞くと、驚かれるのではないでしょうか。
旧暦でお盆の行事を行うため、新暦では毎年異なる日になるのです。新暦の8月初旬に当たる年もあれば、9月に入ってしまうことも。なので毎年、日めくり暦や手帳などをぱらぱらとめくりながら、旧暦七月十三日が今年は新暦のいつに当たるのかを確認します。
今年も旧盆の時期が近づいてきましたので、今回は、うちのお盆のことを思い出しながら書いてみようと思います。宮古のなかでも家庭や地域によって違いがあると思いますので、あくまでも一例としてお読みくださいね。
さて、その旧盆の最初の行事は、旧暦七月七日の「七夕(たなばた)」です。
現在では七夕といえば、願い事を書いた短冊を笹の葉につるして、織姫と彦星が年に一度出会う夜空を見上げる、というイメージが強いのですが、旧暦の七夕は「お墓掃除の日」なのです(お墓も内地のような墓石タイプではなく、家形をした小屋サイズのコンクリート製のものや、崖地を利用した掘り込み式のものなど、比較的お墓は大きい)。
先祖のお墓をみんなで掃除し、お盆の案内をしに行くのです。墓の掃除、といっても、強い日差しとスコールのおかげで、墓場の植物たちはあり得ないぐらいの強靱な生命力でもってコンクリートを突き破って根を張り、墓の境目もわからなくなるぐらい植木は伸び放題、雑草もびっしりと生い茂っています。まずはその雑草を刈りとり植木を整えて墓の姿をあらわにし、きれいに掃除をすること。そのあとで墓前にお酒とお菓子を供えて線香(沖縄の線香は6本分が横に繋がった平香というタイプ)を立てて、手を合わせるのです。汗びっしょりの半日作業ですが、みんなでわいわい作業をするのでなんだか楽しい思い出です。
旧盆本番は、旧七月十三日の「ンカイ(迎え)」の日から始まります。
一週間前に掃除したお墓で線香を上げ、それを持ち帰って家の仏壇に立てることで、先祖を迎えたことになります。仏壇にはご馳走や果物などが供えられ、灯籠がついて華やかになります。
旧七月十四日は「ナカビ」=中日です。
この日は仏壇のある親戚・知人の家にシューコー(焼香)しに行きます。また、仏壇のある家はご馳走を用意して訪問者をもてなします。うちに来たお客さんとお話しするのが楽しかったように覚えています。
そして旧七月十五日、「ウフイ(送り)」の日です(うちでは「ウクイ」といっていました)。
夜、家族親戚で集まってご馳走を囲んだあと、先祖を送り出すための行事が始まります。
まずは「ウチカビ(打ち紙)」。「あの世のお金」といわれる、「カビジン(紙銭)」を仏壇の前で燃やします。このあたりは大陸文化からの影響だなぁ、と思うのですが、紙銭といっても、中華圏のような派手な色彩の紙ではなく、黄色っぽい紙に円い(小銭状の)押し型がたくさんならんでいるものです。
それを、仏壇の前で金ダライ(カニバーキ)の中で火をたき、少しずつ燃やしていくのです。子どもの頃の私は、父や祖母がその作業を行う隣で、炎をじっと見るのが大好きでした。
ウチカビが終わると、その燃えかすをまとめたものと線香を持って家のおもてに出ます。
そして道路の脇にそれを置き、皆で手をあわせて、これからまた一年、見守ってください、また来年お越しください、と祈るのです。無縁仏用に、小さなお菓子も添えます。これでおしまい。
子どもの頃は毎年、盆の行事のある数日は、日常と少し異なる心持ちで、なんともわくわくしていました。大人になると準備も当日も片付けもあって大変なのですが、ね。
今年(2015年)は8月26日から28日までが旧盆期間。七夕(旧七月七日)は新暦8月20日となっています。
今年も旧盆期間には帰省できそうもありませんが、ウフイ(送り)日には、遠くからふるさとの方を向いて手を合わせたいと思います。
<画像提供:砂川家・本村家>