首都圏はすっかり若葉の季節になりました。
道を歩くだけでも街路樹や植え込みの明るい黄緑色の若葉が、この時期特有の淡い空色に映えてなんともきれいです。
宮古ではテッポウユリの季節を迎えている頃でしょうか。私のいちばん好きな花です。トライアスロンの開催される頃からゴールデンウイークにかけてが先頃だったと記憶しています。この時期に鳴くクサゼミやミヤコニイニイゼミの鳴き声とともに、宮古の「ウリズン」草木が生い茂りはじめるこの時季の風物詩ですね。
そう、季節。宮古で生まれ育つと、いわゆる「四季」の概念がなく、春に舞う桜も紅葉も、テレビの向こうや本や雑誌の中でのことだったので、子どもの頃の私は「宮古には『季節感』がない!」と思い込んでいました。
でもそんなことないですよね。宮古には宮古ならではの季節感があります。
その独特の季節感は「旧暦」と、それに則って島内各地で行われるさまざまな伝統行事に現れていることに、いつからか気がつくようになりました。
うちは親戚に農業者も漁業者もなく、私自身も平良の市街地で育ったので、伝統行事には疎い方だと思います。
それでも、宮古にいると、本土で生活する現在と比べてもはるかに、旧暦を意識する機会が多くあります。
例えばお盆はまず旧暦で行いますし、正月も新暦・旧暦両方やります。
春分・秋分・夏至・冬至など、現在の暦と共通のものもありますが、二十四節気や月の満ち欠け、潮の満ち引きなど、太陽太陰暦である旧暦でなければ日が定まらない行事もあり、いまも生活の中に息づいています。
旧暦といいながらこの暦の活躍っぷりは全然「旧」ではありません。現役の暦です。
そこで、一年のうちにで一体どれだけの行事があるのか、私のうろ覚えの記憶と、うちの母へのインタビューで挙がった旧暦関連の行事をざっと書いてみます。
<旧暦一月>
・ 一日:ショウガツ(正月)
良い年となるよう、1年の始まりに先祖に拝む。
・十六日:ジュウロクニツ(十六日祭)
後生(あの世)のショウガツ。墓前祭。親族で墓の前に集まり、先祖供養をする。
<旧暦三月>
・ 三日:サニツ
女性が浜に下り、潮に手足を浸して、不浄を清める。健康祈願。お弁当(ご馳走)を持っ
て行く。
※旧暦三月の大潮の日の前後には、池間島の北方に八重干瀬(ヤビジ)と呼ばれる珊瑚礁が出現し、幻の大陸と呼ばれる。潮干狩り。
<旧暦五月>
・ 四日:ハーリー(海神祭)
航海安全・豊漁祈願の爬龍船競争。現在でいう「こどもの日」にも当たり、子どもの成
長・健康も祈願される。
※カーツ(夏至=新暦6月22日頃)。特に行事などはないが、この頃に吹く南風を「夏至南風(カーツバイ)」といい、梅雨が明ける頃とされる。
<旧暦七月>
ストガツ(節月=旧盆)
・ 七日 タナバタ(七夕):盆の一週間前。墓を掃除し、先祖を迎える用意をする。
・十三日 ンカイ(迎え)。墓に行き、先祖の霊を迎える。
・十四日 ナカビー(中日)。仏壇のある親族の家まわって焼香(シューコー)する。
・十五日 ウクイ(送り)。先祖を見送る
※旧盆期間中に、宮国などでは大綱引きがある。
<旧暦八月>
・十五日 十五夜 市内は子どもたちがシーシャガウガウ(シーサータース:獅子舞)をして
練り歩く。古くは男の子が獅子舞、女の子は広場に舞台をつくって踊りを披露していたそ
う。フカギを食べる。他には、野原のマストリャー、狩俣の大綱引きなど。
※旧暦の八~九月は、あちらこちらの豊穣祈願の行事を行われる。多良間の八月踊り(多良間島)、ミャークヅツ(池間系の集落)、ユークイ(各集落)、パーントゥ(島尻)など(野原パーントゥは旧十二月)。
※冬に向かって気温が下がっていく旧暦十月(新暦では11~12月)頃に、急に夏に戻ったかのように暑くなる日のことを「十月夏がま」という。
<旧暦十二月>
・トゥンジー(冬至=新暦12月22日頃) トゥンジージューシ(冬至雑炊)を食べ、健康と家族
の繁栄を祈る。
<その他>
・春分/秋分
ピンガン(彼岸)。ウチカビ(打ち紙、紙銭)を燃やして祖先供養、健康祈願など。
ざっと、こんな感じでしょうか。季節の折々に、先祖の神様に祈りまくっている印象です。
私の住んでいたところには、神歌のように延々と祈る歌はありませんが、これだけでも「先祖に拝む」という行事の多さに驚きます。平良で育った私でも、意外と信心深いさいが。
といいつつ、私が実際に体験したことのある行事は上に挙げたものの7割ぐらいです。サニツの浜下りとか、十五夜の女の子の方の行事とかは、うちの母の話を聞いただけです。目をキラキラさせて、あまりにも楽しそうに昔話をするので、聞きながら羨望の感情がわき起こります。どーして私の世代にはソレが引き継がれなかったんだ…。
さておき、これでもまだまだ全ては網羅できていないのではないでしょうか。
また、方言での行事名は、私の実家/親戚周りの言い方(平良方言?)で書いているので、他の地域・集落とは言い方が異なる場合もあると思います。
例えば、盆の送り日はうちでは「ウクイ」でしたが、新聞など見ると「ウフイ」と書かれることが多いですし、十五夜に食べる「フカギ」は「フキャギ」「フチャギ」という言い方も聞いたことがあります。集落ごとに方言が異なる宮古ならではの現象ですね。
そこで、読んでくださっているみなさんにお願いがあります!
「うちの地域では違う言い方をする」「違う風習がある」というのがあれば、コメント欄やメッセージで教えていただけませんか。地域(集落)名もあわせて知らせてくださると、地域ごとの特色や全体像がわかって面白いと思います。
また、上に挙げた以外の行事ももちろんたくさんあると思いますので、このほかにどの地域でどんな行事があるのか、などもありましたら教えてください。宮古の、特に旧暦・伝統行事については、うまく全体が網羅された資料が探しにくいと感じます。この連載を通して、「宮古の旧暦・行事リスト」をわかりやすく整理していければいいなと思っています。