第35回 「不時着の地 記念碑」

atalas

2015年06月16日 12:05



今月は慰霊の日(23日)もあり、戦後70周年の年でもあるので、少しそちら寄りの石碑を続けてみようと思います。そんな城辺編の三週目は「不時着の地 記念碑」という、ややもやっとしたネーミングの石碑-いしぶみ-です。
きっとこの石碑はその名前よりも、城辺球場近くの一周道路(県道83号)沿いの畑の中にある「ハートの碑」、といえば知っている人も多いのではないかと思われます。


  石碑に記されている解説文

一九四二(昭和一七)年一月二十四日、日本軍の九九式襲撃機が六期編隊で宮古島上空を飛行中、通信兵と二人乗りの隊長機にエンジントラブルが発生、この地に不時着した。岐阜県の各務原を飛び立ち沖縄本島経由で台湾・フィリピン方面へ飛行機輸送任務中のことであった。
当時この地は、起伏が激しく、わずかな平地を捜して着陸はしたが、修理後の離陸を困難と判断した小田泰治機長(当時陸軍中尉二十二歳)は、滑走路作りの協力を城辺村長に要請した。これに応え、島内児童生徒・老若男女が連日作業に当たり、一ヵ月後には幅約三十メートル長さ三百メートルの手作り滑走路が完成、飛行機を無事離陸させた。
五十五年後「おかげで任務が遂行できた」と小田機長が来島した際にこの現場を確認した。
ここに宮古島の子供たちをはじめ住民の親切・協力心をたたえ、小田機長の感謝の意を永久に伝えるために、記念碑を建立する。
一九七七(平成九)年6月吉日


少し気になったポイントを調べてみると、急造の仮設滑走路から再び飛び立つことが出来たのは、案外、九九式襲撃機の基本性能の高さにもあったようにも感じました。
この飛行機は複座式で低空からの対地攻撃性を重視した設計で、終戦までにおよそ2300機も製造されました。戦地での酷使にも耐えうる整備性や実用性に優れ、操縦性の良さは練習機や連絡機などに重宝された点に加え、固定脚を持っていたため不整地からでも飛ぶことが出来るという高い汎用性がありました(大戦末期は速度的にも旧式に分類されるも、終戦時まで第一線で活躍し、国外に残存した機体の一部は現地の軍部に徴用され、中国人民解放軍やインドネシア独立戦争で活躍します)。
ちなみに小田中尉らがこの時向かう行き先は、台湾の塀東だったようです。

とはいえこの仮設の滑走路の建設には、不時着現場近くの福嶺小学校(当時は福嶺国民学校)の児童らが、労働力として動員されたという話はかなり有名なことから、福嶺小の校史も紐解いてみると。。。

昭和十七年一月二十四日 零時三十分台湾方面へ向ケテ飛行機六機中一機故障、字福里北海岸ノ浦底平地ニ不時着(午後一時頃)
低空飛行スルコト約二十分(飛行中福嶺校北西松林中ニ「飛行場知ラシテ下サイフジチャク」ノ紙片ヲ落ス)。ソレヨリ職員総出トナリ不時着地ノ選定ヲナスト同時にニ役場、駐在、平安名崎〇〇隊ニ急報ソノ中前記平地ニ乗者、機体無事着ス。

昭和十七年二月三日 飛行機不時着ノ地均工事ヲナス 職員児童青年団員出仕。

昭和一七年四月三十日 感謝状ヲ受ク
各務原陸軍航空輸送部支部 節川原野不時着セル機長 陸軍中尉小田泰治


と、早々に小田中尉はお礼もされていることが判ったのでした。しかも、この小田中尉は戦後、日本航空の国際線パイロットとして活躍され、さらにその後、1997年に不時着以来初めて宮古島を訪れ、福嶺小の同窓会関係者と逢い現地を確認するとともに、不時着の碑を建立します。
この頃から福嶺小と小田中尉との交流が始まり、2007年に再訪された際も新聞記事になっていました。
また、福嶺小では成績・行動の模範生として評価される「小田泰治賞」という賞まで制定され、毎年、卒業式で表彰されているという。

開戦しておよそひと月という勢いのある時期だったこともあり、どことなく牧歌的な雰囲気の漂ういい話になっていますが、5ヶ月後にミッドウェー海戦で日本軍は大敗し、戦況は風雲急を告げるのです。

【資料】
小田元機長が来島/軍用機不時着の縁 福嶺小同窓会、記念碑前で旧交温める
                           宮古毎日新聞(20070305)
滑走路づくりの生徒らと再開 元軍用機操縦士の小田さん   琉球新報(19970124)

連載企画 「んなま to んきゃーん」
なにかを記念したり、祈念したり、顕彰したり、感謝したりしている記念碑(石碑)。宮古島の各地にはそうした碑が無数に建立されています。
それはかつて、その地でなにかがあったことを記憶し、未来へ語り継ぐために、先人の叡智とともに記録されたモノリス。
そんな物言わぬ碑を通して今と昔を結び、島の歴史を紐解くきっかけになればとの思いから生まれた、島の碑-いしぶみ-を巡る連載企画です。
※毎週火曜更新予定  [モリヤダイスケ]

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