第159回 「アダン川」

atalas

2017年11月07日 12:00



しぶとくまだ続いている井戸にまつわる石碑シリーズです。えっ、そろそろ飽きた?。地味すぎて最初から飽きてるんじゃないのかしら。ままま。いつかは役に立つ(はず)のシリーズなので、もう少し続けさせてくださいよ(井戸廻り以外のネタも溜まって来たので)。
今回の石碑は「アダン川」。読みは「アダンガー」でよいかと。同名を名乗るバス停が友利線の花切にありますので(もちろん井戸の最寄りのバス停です)。花切集落ですが、そもそもこのあたりは「下南」と呼ばれていました(公民館などは下南なので、呼称が無くなったわけではない)。これは下里添の南という意味です(下里添の北、下北も存在します。同様に隣り大字・西里添にある、西西、西中、西東はそれぞれ西里添の西・中・東であり、福里や長間でも同様の呼称がみられ、字+方角の小字名は城辺地区の特色ともいえるきがします)。
尚、西側の丘脈を登った上野側にも花切原など、花切を冠した小字があります(上野小界隈)。

実は今回の石碑は、ここ最近おなじみの井戸の改修ではありません。なぜならアダンガーは井戸ではなく、形状としては湧水だからなのです。
しかし、湧水といってもこんこんと水が湧いてる訳ではなく、ガジュマルの根元に湧水の場所らしき穴が開いているにすぎません。水の変わりに穴のまわりにはクワズイモ(ビューガッサ)が大きな葉をいくつも広げています。クワズイモは水気の多いところを好み、大きく育つことから、湧水のまわりやバダ(崖下や陥地に湧いた水が作る湿潤地。水量があれば小川にもなる。語源は恐らく“はけ”ではないかと邪推)などに多く見られます。これを逆手に取って、湧水の探索にはクワズイモの生える地を目指したりします。
ただ、時に身の丈を越す大物のクワズイモの群生に出くわしたりすると、さすがに鳥肌が立ち尻込みをしてしまいます。トトロの世界だーっなどと無邪気にはしゃげるほど、巨大なクワズイモの群落は可愛くないです。むしろ禍々しくてRPGならモゾモゾと動き出して、毒液とかで攻撃してきそうなレベルです。毒と云えばクワズイモの茎を切ったりすると白い液体が滴ってきます。これはシュウ酸カルシウムで皮膚の粘膜に対して刺激をもたらすので、むやみやたらに触らぬ方が良いので気をつけて下さい(まがりなりにも毒草に分類されている)。

【左 自然石の畏部もちゃんとあります】
【右 クワズイモの茂る、湧水の穴】


いつものように脱線してしまったので、軌道修正。
どうやらこのアダン川の石碑の正体は、平成13年に建立された畏部(イビ)のようでqす(茶椀が供えられていることからの推察)。
しかし、石碑の隣には古い自然石をコンクリートで固め、香を焚いた痕跡と緑青の浮いた小銭が置かれている畏部があるので、こちらが本家本元ではないかと思われますが詳細については不明です。もしかすると別々でどこかの神様を遥拝されているのかもしれません。ここで気になるのは、湧水や井戸、海の拝所など、水の神(竜神・竜宮・水神etc)では普通、水の対極である火は忌まれるので、香は焚かないが通例なのですが(画像にあるこぼれた香は焚いた形跡はない)、畏部の脇の黒ずんだところといい、畏部の一部が煤けているように見えます(もし、焚いているとしたら、水の神でない何かを遥拝している?それとも祭祀を努める方のヒューマンエラーか?)。

【ニスニャー井の石組と底にある井戸】

このアダンガーは砂川地下ダムの貯水域の上あります。ちょっと乱暴な方便ですが、地下ダムと同じ水であると考えてよいのではないかと思います。もっとも、島の大地の上には人が暮らしており、キビ畑があり、学校がありますので、井戸よりも地下ダムの方があとなので、アダンガーの水は地下ダムに盗られたというような云い方もあるかもしれません(実際、水はそこになかったので)。

【左 この木の根元からニスニャー井のカーニガイを行う】
【中 大きな釣瓶の残る古井戸】
【右 古井戸は給水施設の隣にある】


ちなみに、このアダンガーの周辺には他にも井戸があります。ひとつは東側のキビ畑の脇にニスニャー井というウリガーがあります。美しく見ごたえのある石組が壁面を覆った深い穴の底に、掘り抜き型の井戸に改良されたニスニャー井があります。使われなくなって久しいのか、降り口には簡易的な鉄柵が据えられており、あまり手入れもされていないようなので、素敵なウリガ―なのでちょっと残念でなりません。
もうひとつは与那原に近い南側にある、コンクリート製の釣瓶が残る井戸です(名称不明)。ちょうど井戸の前は農業用水の給水施設になっており、今も昔も水を求める人たちか訪れる場所になっている偶然は緒と面白かったです。
この三つの井戸と湧水は下南(花切)のカーニガイ(井戸に感謝する拝み)をする対象となっているのだと教えていただきました。水道が通じても未だに井戸に対しての感謝は続けられており、島の水に対する並々ならぬ想いを感じざるを得ませんでした。


【資料】
砂川地下ダムマップ(pdf 地下ダム資料館)
【アダンガー】


【ニスニャーガー】


【釣瓶の古井戸】

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