其の6 提案するのは新しい集まり方~ケイコさんの宮古島コレクティブ
宮古島は素敵だ。その素敵に引き寄せられ、外から人々がやってきて、新しい風が吹く。風は、島や人の力をなりなりと掘り起こしたりもするし、そこから新しい何かが生まれたりもする。有馬恵子さん(以下、ケイコさん)も、たぶんそんな風のひとりだ。とてもとても美しい風の人だ。
ケイコさんは「アンサンブルズ・アジア・オーケストラ」ディレクターとして、宮古島へやって来た。「アンサンブルズ・アジア・オーケストラ」とは7年にわたる壮大なプロジェクト「アンサンブルズ・アジア」の活動のひとつだという。HPには以下のように書かれている。
アンサンブルズ・アジアは、音楽のフロンティアと音を楽しむ人とをつなぎ、音楽を通じ様々な交流をするなかで、アジアの国どうしの相互理解を深め、ヒエラルキーのない誰もが参加できる現場をつくり、新たな音楽の可能性を世界に発信します。
「アンサンブルズ・アジア」は、国際交流基金アジアセンターが主催し、音楽家の大友良英氏をアーティスティックディレクターに迎え、アジア地域との文化交流を進める目的で、2014年に始動しました。
http://ensembles.asia/overview/
ケイコさんたちのミッションは、アジア各地で「音楽家なしの音楽」をテーマに、音楽の専門家でない人たちと交流しながら、オーケストラを創り上げていくこと。これまで、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムで活動を開始してきた。
例えばベトナムでは、日本のような音楽教育の素地はないんです。
幼稚園や小学校で音楽を教えるということもなく、楽器だってない。
それが逆に面白くて、みんなで音の素材を探して楽器づくりから始めました。
水を使ったり、竹でリードを作って笛のようなものを作ったり。
【2016年7月 「ハノイ・コレクティブ・オーケストラ」より 左から鈴木昭男さん、ケイコさん、大友良英さん】
そして、そのプロジェクトは宮古島へとつながった。ここは東南アジアの文化の潮流と、日本とをつなぐ場。東南アジアの島々へ連なる「先の島」だから。何より島には音楽があふれているからと、ケイコさんはいった。
宮古島でのプロジェクトは「宮古島コレクティブ」という。コレクティブは「集合」。集まった人たちが、何をするか考え、お互いの響き合いの中で、即興で音を作っていく。その場で創るという過程もまた表現の一部になるのだと。
場所と作品のリンクというのは美術の世界でも主流。
場所の持つ力は強固なんです。
このプロジェクトは、人々の日常とか風土と切り離せないもので
それぞれの地域からそこならではの独特の音楽が生まれてくる。
普通の人々が音楽を創り出す「音楽家なしの音楽」という発想は、B・ルドフスキーの「建築家なしの建築」から来ているという。ケイコさんの専門は建築で、20代の頃は建築やアートの仕事で、ヨーロッパ中を駆け回っていた。
出版だったり、トリエンナーレのような展示会の企画だったり。
あるものを二次的に形を変えて伝える仕事ね。
ガンガンメールして、ガンガンネゴシエーションして、
その頃はそんなのが面白くて。
ああ、私、仕事してるなって(笑)
そんなタフネゴシエーターのケイコさんを変えたのは、東日本の震災だった。ケイコさんは、震災後、福島の避難所に建築家仲間とボランティアにでかける。
避難所も半年も続くと日常になる。
だからそこでどう快適に過ごせるか、
建築で解決できると思いあがってたの。でもそうじゃなかった。
地元の学校の吹奏楽部の生徒たちがやってきて演奏したりすると、
避難所のロビーのような場所がぱっと理想の空間になる。
目から鱗じゃないけど、広場や空間を作るのは建築じゃないんだなと。
以来、ケイコさんの活動の場は、建築というハードから、人というソフトへと転じる。俳優でリバースプロジェクト代表の伊勢谷友介氏らと、原発の事故でバラバラになった飯館村の子どもたちのために、9か月遅れの卒業式に参加した。「私、着ぐるみきたり踊ったり(笑)いろんなことをやって」。ケイコさんはとても楽しそうに笑う。リバースプロジェクトの仲間と震災後に活動したことが確実にいまの原動力になっているという。
大事だと思うのは、集まり方とか、作り方とか、つながり方とか。
同時に、こういうプロジェクトって現実ではなくて
ある意味仮想の世界だと思うの。一過性の。
それでも、こうあったらいいなという社会の、ちょっと先を見せてくれる。
もとからある土地の鼓動に、外からの異質が、違うリズムで挑発する。ふたつのリズムは、反発し調和し、お互いを共有しあう。「それは音楽だけじゃなく、実際の社会の中でもたまに起きること。それがきっかけになって新しいつながりや何かが生まれたらいいなと。それを私は見てみたい」。そうケイコさんはいった。
宮古島コレクティブは11月6日(日)と7日(月)。その日、宮古島にどんな音楽が生まれるのだろう。
※ ※ ※ ※ ※
『宮古島アンサンブルズ&オーケストラ』
「宮古島アンサンブルズ&オーケストラ」は、大友良英と宮古島の音楽家、一般参加者が即興で演奏する参加型のアンサンブルとオーケストラです。ワークショップのなかで音楽をつくり、発表します。
楽器がなくても身近にある音の出るものや手製の楽器、踊り、手拍子、歌で参加するのでも大歓迎です。ふるってご参加ください!
日時 2016年11月6日(日)
12:00 受付開始
13:00 ワークショップ開始 (17:00終了予定)
場所 宮古少年自然の家
沖縄県宮古島市平良字東仲宗根添1164-1(MAP)
対象 楽器の経験や年齢を問わず誰でも参加できます。
【事前申込不要 参加費無料 参加・観覧自由】
ゲスト・アーティスト
友良英 親泊宗二 池村綾野 池村真理野 與那城美和ほか
『宮古島会議』
宮古島の手料理を参加者と囲んだ後に、言葉、民謡、音楽、写真などさまざまな議題を共有する「宮古島会議」を開催します。「会議」とは言いますが、島外から訪れる方と地元の方々が集まり、対話や唄や踊り、料理を通して相互理解と交流を深めるアットホームな集会です。島言葉で言うところの「ゆんたく(何人かで集まっておしゃべりする井戸端会議のようなもの)」に近いのかもしれません。初回となる今回は狩俣集落での実施を予定しています。音楽や民話、民謡などを持ち寄り、対話を通して文化への理解を深めます。ぜひご参加ください!
日時 2016年11月7日(月)
17:00頃より レセプションパーティ
18:00~21:00 宮古島会議(ゆんたく)
場所 狩俣集落センター
沖縄県宮古島市平良狩俣1255-1(MAP)
【事前申込不要 参加無料】
参加者
大友良英(音楽家) 上原佐登 大関凪沙(宮古高校写真部) セリック・ケナン(言語学研究者) 森永泰弘(サウンドデザイナー) 與那城美和(宮古民謡唄者)ほか
【関連link】
アンサンブルズ・アジア・オーケストラ
http://orchestra.ensembles.asia
REBIRTH PROJECT
https://www.rebirth-project.jp
http://www.rebirth-project.org/
※ ※ ※ ※ ※
【あとがき】
「宮古だから、インスパイアされる音楽がある」と
江川ゲンタさん。「沖縄古典音楽の速度は脈ではかる」と
與那城美和さん。これまで取材して心にとめた、そんな言葉たちと深くリンクするなあと、ケイコさんのお話を伺っていて思ったのでした。そして、震災がきっかけで建築から人とのつながりへと人生のシフトが起きたというエピソードは、とてもとても納得できて、「大友さんに、きみはほんとに柔軟だよね~と言われるの」というケイコさんは、本当にしなやかで美しく、こんな〝風″になら、ずっと吹かれていたいと思う素敵な風の人なのでした。
(きくちえつこ)
関連記事