第11話 「虹色の魚」

atalas

2018年10月14日 12:00



夢を見た。
サバニの船底は、虹色の魚でいっぱいだった。
大漁だ。

いつかの、虹色の魚。

友人に、八丈で釣ったばかりだというアカハタをもらった。
お宅まで取りに行くと、縁側に出された大きなクーラーボックス。
宝箱のように蓋を開けると、揺れる海水の中に赤とオレンジのヒレを広げて、綺麗な魚があった。
それを手で掴んでビニール袋に入れた。

新鮮な魚が2匹。
ビニールの口を閉めないで、そのまま車に乗せて、
運転していたら、ふと、海の匂いがした。

いつだったか、小さかった息子が、後部座席で、魚を詰めたビニール袋と一緒に座って、
「いいにおい…!」
と言ったのを思い出した。

あれは10年くらい前。
私は宮古島の狩俣という集落に住んでいて、車で、西の浜に向かっていた。
漁港に魚が揚がったと、防災無線で放送が流れたからだ。

息子はまだ4、5歳で、私も魚を捌(さば)けなかった。
けれども、なんの気なしに、漁港へ行ってみたい気持ちになったのだ、その時。

着いてみると、白いビニール袋に、ぎゅうぎゅうに、いろんな魚が一緒くたに入っていて、一袋いくらだったかな。。。

息子と2人だから、1匹でいいんだけれど・・・。
と行っても、とにかく魚をはけたいのか、袋売りだという。
値段は激安だ。
ひと袋で1匹くらいの値段。

じゃあ仕方がない、と。
なるべく少ない袋を探そうとして、いちばん端にあった袋を覗いて見た。

驚いた。

夢で見た、虹色の魚がいる。。

不思議だった。。。
けれども、
漁港に誘われて来た理由がわかった気がした。

虹色の魚がいます。
宮古島には。

漁港からの帰り道。
「いいにおい!」と、息子はうれしそうだった。

自分が子供の頃、東京下町の魚屋は、生臭い匂いと、血を洗う床の水は流しっぱなしだ。
魚の見た目も私には怖くて、よくおばあちゃんに連れられて買い物に行ったけれど、魚屋だけは苦手だった。
でもなぁ。。
私も、息子くらいの時に、新鮮な、ほんとに海から揚がったばかりの魚に触れていたら。
きっと、絶対、魚が好きだったと思う。

今は魚を、釣るのはそれほど興味はないけれど、捌いて美味しく料理するのは大好きだ。
八丈島に来てから、出刃包丁と柳包丁を揃え、初めて自分で魚を捌くことに挑戦した。
まだまだ下手で、時間もかかるのだけれど。。。

海の魚。

当たり前だけれど、魚は海にいるんだ、ってことを実感できるのだ。

宮古島で、西の浜から帰る道。
子供の無垢な言葉に、車に満たされる海の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、今晩のおかずを手に入れたんだっていう、満足感。
しあわせだな、って感じたことを、思い出した。

八丈島のアカハタは、ぷっくりとして、釣った本人は、こんなの小さいよーと言っていたけれど、30センチ以上はあるかな。

刺身と、マース煮。それとマース煮の後、みそ汁でいただきました。
ついでにいただいたカツオの刺身も、新鮮で美味しかった。
息子は魚を本当によく食べる。
それは魚が美味しいから。
ほんとにしあわせなことだ、と。

感謝しています。
扇授 沙綾(せんじゅ さあや)

1976年 東京生まれ。
2003年から2011年まで、宮古島・狩俣に住む。
伊良部島へフェリーでの1年間の通勤を経て、東京へ。
現在、東京在住→2018年、八丈島へ。
12歳の息子と二人暮らし。

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