宮古の名物料理といえば? いろいろな答えが出そうな質問だが、私は断然サルテンポッカを挙げたい。
沖縄本島で暮らしていた頃、あちこちの食堂に入ったが、メニューとして掲げられているのを見たことがないし、八重山で食べたという話も聞いたことがない。ネットで「サルテンポッカ」で検索すると、ほぼ宮古に関連するものしか出てこない。宮古名物とは思われていない密かな宮古名物の料理、それがサルテンポッカではないだろうか。
【れりあんのサルテンポッカ】
冬のとある雨の夜、宮古空港に着いた私は、迎えに来てくれたM氏の「夕飯のご希望は?」という問いかけに「何はともあれサルテンポッカ」と答えた。ちなみに当方の希望は「たいよう」、しかしM氏は即座に「時間的に厳しい」と答え、至極冷静に「れりあん」を候補として挙げた。我々は話し合った結果、今晩の夕飯は「れりあん」、明日の昼食は「たいよう」と決めた。こうして24時間に満たない短い宮古滞在の3食中2食が、サルテンポッカとなったのである。
『れりあん』
西里通り、琉銀の向かいの「れりあん」は、不思議なお店だ。看板には「カラオケ」「喫茶」とあり、2階へ上がるといかにもカラオケボックス然とした受付がある。喫茶は、といえば、奥に入ると通りに面して大きな窓という、今どきありそうでないしっかりした喫茶店の佇まいで、カラオケと同居というのが不思議な気がしてくる。喫茶と言いつつフードメニューも充実していて、メニューの最下段には燦然と輝くサルテンポッカの文字があった。ちなみに一番高いメニューでもある(1000円)。ガタイの良いお兄さん注文すると、しばらくして厨房から何やら調理する音とともに「ジュワッ」と揚げる音が聞こえてきた。もうお腹が空いて我慢できない。
程なくして、まずソースが配膳された。しばらく待ってサルテンポッカ登場。早速ソースを掛けて一口いただく。チーズをベーコンで巻いて、さらに薄切り肉を巻き、衣をつカラッとやや硬めの挙げ具合。酸味のあるソースの味と相まってしっかりした食感の、あのお兄さんのガタイそのままの、硬派な味わいだった。もっとも厨房を担当するは別のおかあさんなのだけれど。さて、この店の特徴は、ソース。ウスターソースともいえない、もっと酸味があるサラッとしたソースをサルテンポッカにかけて食べる。後述する「たいよう」との最大の違いはこのソースで、和食化したフライではなく、硬さと酸味がより本来のカツレツ的な味わいにしている気がする。
『たいよう』
サンエーオリタ店の裏手にあるうなぎ屋さん「たいよう」。初めてこの店を見つけたのは、宮古を初めて訪問した時なのだが、普段うなぎを食べないのなぜ入ったのか分からない。しかもサルテンポッカを食べているのでうなぎ目当てでもなかったはずだ。しかし、この店との出会いがなければ、私はサルテンポッカとも出会わなかった。メニューを見て「サルテンポッカとは?」と聞いたはずだが、なんと教えてもらったのかは覚えていない。たしか「イタリアの料理で、薄切りの肉とチーズを揚げたもので…」という回答で、サルテンポッカを知っていれば納得の答えだが、当時何も知らなかった私は更に疑問が深まったので「ではサルテンポッカを…」と注文した記憶がある。
さて、「たいよう」のサルテンポッカは、ミルフィーユのように重ねられた薄切り牛肉と濃厚なチーズとベーコンがやわらかくフワっと揚げられており、そこにデミグラスソースがかけられている。ああ、確かにこの濃厚さはイタリアだ、と妙に納得するものである。だが、これがまたクセになるのだ。ちなみに、盛り付けもやや高級感があり、その分お値段は張る(1350円)。味わっていただこう…と思うのだが、濃厚なのに箸が進む。油っぽさが鼻につくなら、もずくと味噌汁で口直しをすればいい。また再び美味しくいただける。こちらはよりトンカツに近い味わいと言えるだろう。(なお、今回「たいよう」で、なぜサルテンポッカをメニューに? と聞いたところ、娘さんらしき方から「これにはとっても長い話があるんです」と。いつか、この長い話もお聞きしたいもの)
【たいようのサルテンポッカ】
総評
「れりあん」があっさり味なら、「たいよう」はこってり味という趣き(そもそもサルテンポッカ自体がこってりだが)。同じメニューでありながら、両者は揚げ方からソース、そのかけ方まで逆なのが興味深かった。もちろん、私にとっては初めて食べた「たいよう」こそがサルテンポッカの標準なのだが、「れりあん」独特のソースと硬めの揚げ方も捨てがたい。どちらが美味しいのかは難しいところだが、M氏と私で逆の評価となったことだけは記しておこう。
後日、M氏に宮古にあるイタリアンレストラン「ドンコリism」のブログに、サルテンポッカに関する記述がある、と教えてもらった(
「どんこりブログ」 2012年11月12日)。当該部分を引用すると、
「Saltinbocca alla Romana ローマ風サルティンボッカ ん!?と思った人、ハイ正解! 宮古で見かけるサルテンポッカの原型だと思われますよ、てかそうです。イタリア語の意味はsalto=飛び込む、in=中に、 bocca=口【口の中に飛び込んでくるほど美味しい】なんとも食べたくなるネーミング」
とのこと。さすがのお答えで、これでサルテンポッカの”身元”が判明した。ぜひ次に宮古を訪ねる機会には両者を食べ比べたい。なお実際にイタリアで食べた人の話では、「手軽に出来て簡単に食せる一口おつまみ」らしい。
フライやカツという食べ物は不思議な食べ物で、本来西洋料理なはずなのに、トンカツ店も得てして和風の店構えで、いかにも和食という扱われ方をしている。イタリアのサルティンボッカが、なぜ宮古でサルテンポッカに変わったのか、今の時点では分からない。だがトンカツがまるで和食の顔をしているように、宮古のサルテンポッカはこれからも宮古の食べ物であり続けて欲しいと思う。
【店舗情報】
「カラオケ・喫茶 レリアン」
営業時間 喫茶 10:00~23:00
カラオケ 月~木・日/10:00~25:00 金・土/10:00~27:00
電話番号 0980-72-6768
所在地
沖縄県宮古島市平良字西里233-2F
定休日 無休
「うなぎ たいよう」
営業時間 11:00~13:30 18:00~21:00
電話番号 0980-72-9445
所在地
沖縄県宮古島市平良字下里637-1
定休日 不定休