7冊目 「珊瑚礁の思考 〔琉球弧から太平洋へ〕」

atalas

2016年04月08日 12:00



今週は、諸般の事情で「島の本棚」担当の江戸之切子がおやすみ。変わって、ピンチヒッター(と、いうより困った時のなんとやら)宮国優子が寸暇を惜しんで熱筆を奮いました(感謝)。
今回ご紹介する「本」は沖縄というより、筆者が与論島のご出身なので、琉球弧・奄美諸島が主軸です。やや興奮気味に語る、宮国渾身のブックレビューをお楽しみください!。


 「珊瑚礁の思考 〔琉球弧から太平洋へ〕」

まず、本のボリュームに驚く。
第一部の「円環する生と死」では「われらアマンの子-祖先」から始まり「蛇からアマンへ-脱皮」「いずれ、生まれ変わる-再生」へと連なる構成。ちなみに、アマンとはヤドカリのことです。
第二部は『「あの世」と「霊魂」の成立』で、「境界としての洞窟-風葬」から始まり、「包含するニライカナイ-他界」「マブイの成立と協奏-霊魂」「クチとユタの原像-呪言」で完結する。
第三部の「生と死の分離を超えて」は「まれびとコンプレックス-珊瑚礁」「仮面がつなぐ-来訪神」「人、神となりて-御嶽」があとがきへと続く。

喜山さんが円熟期を迎えた渾身の作品。ロジックはしっかりと書かれているのに、行間が時折、ぐらりと揺らぐ。その様子ががまさに珊瑚礁的な思考だと思わされる。本の中身は言葉足らずに必ずなりそうなので、今回は宮古にからめてのその周辺や、作者の喜山さんとやりとりして感じたことを書いていくことにする。

島を出た人が島を振り返るときがある。必ずやってくる。親が病に臥せった、亡くした、別離、自らの病。身を切られるような寂しさや悲しさのなか、島が身近に迫ってくれるような気がする。自分のなかに眠る島のかけらをかき集め、あらためて自分のなかの島らしさを再構築する。

実際に喜山さんがそのような体験をなさったかどうかはわからない。でも、私は島のポツンと浮かぶような寂しさを喜山さんが理性的に分析したような本に感じる。巻末の喜山さんの参考文献の数の多さはそういうことではないか、などと思う。

自分のなかで「生まれ島」の風と土がほどよく耕された状態かもしれない。やっと土作りが終わって、種まきを始める。その上を風がサアッと吹き抜ける。作者である喜山さんが立っている様子が目に浮かぶ。きっとこれからもっと興味深い島発信の精神性を言語化してくれる。


宮古との共通点を持つ島
あらためて珊瑚礁とは何か、風土とは何か

時折、喜山さんと話をしていて、原風景や無意識の思考が似ていると感じる。話さなくても良くて、沈黙もリズムを刻んでいて心地よい。

先日、お話ししたときは「宮古も与論も珊瑚礁で出来ている島だからかなー」と笑いあった。

都会に住んで、すっかり固定したと思っていた観念や常識がブレ出す瞬間が時々ある。それは、頭というより自然や季節というような外的な要素が身体に響くような感じだ。その時、私は何を手元に置いておきたいか。このような本を置いておきたい。自分の思考の形を思い出すために。

昔、友人に言われてなるほどと思った。電車が永遠に続く(と、私は感じる広さ)に子供の頃から住んでいる友人は、何事も各駅停車のように着実に進む。話し方も行動も整理整頓されていて、とてもわかりやすい。親切だと思う。私はといえば、正反対で、海辺と陸地を行ったり来たり、フラフラとして頼りない。たぶん珊瑚礁の思考とはそんなたゆたうものではないかと思う。


島人の中にある野生をおさめていく

人の野生とは風土から立ち上がる、と思わされることがある。
おだやかな島の人だと思って接していると、とてつもない語気や行動に出くわすことがある。地雷というほどないが、瞬間的に沸点をこえるとき、何がそのエネルギーの原点なのかと脅えるほどだ。
島独特の情熱の所在や発信源は、宮古島であれば、台風であり、痩せた赤土、果てしなく広がる海原、いびつにも見える珊瑚礁の連なりではなのだろうかと思う。
そして、その風土に人間は生まれ、育まれ、時折、野生として発揮される。野生はコントロール不可で、ただ静まるのを待つだけだ。言語化を拒むような、野生。
その野生のヒントがこの本には詰まっている。自然や暮らしに即した心の成り立ちや祭祀行事は、島人が野生を体のうちにおさめていく様子ではないかと感じる。

島を表現する
言語化をしないことは「無い」ということでない。確実にあるものだけど、言語化する必要がなかったことだと思う。でも、島の身体を持つ私たちは、もうそろそろ島を表現してもいいのではないだろうか。南方の根源的な生命力を言語化する、その手引書としての一冊かもしれない。


[書籍データ]
珊瑚礁の思考 〔琉球弧から太平洋へ〕
著者 :喜山荘一
発売元 :藤原書店
発売日 :2015年12月23日
ISBN :978-4865780567
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