36冊目 「上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀」

atalas

2018年09月14日 12:00



先月は、内地でも沖縄でもお盆の月でした。東京では、お墓参りや盆踊りをしますね。宮古島のお盆については、ATALAS Blog 「宮古島四季折々」「すとぅがつ(旧盆)」をご覧ください。沖縄や宮古では、今でも旧暦にあわせ、内地と違った様々な風習があります。本当にたくさんの準備をして皆でご先祖様をお迎えし、もてなし、またお見送りします。祭祀、というと大げさに感じますが、当たり前の日々に先祖崇拝の精神が根付いているようです。

今回は、故・上井幸子さんが70~80年代に宮古島で撮影した写真を、写真家の比嘉豊光さんが編集し、もろさわようこさんの文章が添えられた写真集『上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀』を紹介します。
まず驚くのが、圧倒的な写真の数です。島尻、狩俣の祖神祭や、大神島の運動会、佐良浜のユークイやニガイ、島の暮らしや人々の様子など200ページ以上に亘り写真が掲載されています。この時期に宮古島にいた人なら懐かしく思うことでしょう。そして、今はもう変わってしまった風景にもう一度会えると思います。

上井幸子さんは、1934年静岡県出身の写真家です。本書の経歴を見ると、美大を出て建設省の研究所に勤め、結婚し子をもうける。その後離婚し、働きながらアマチュアとして写真を始める。1965年委集中豪雨被害を受けた福井県西谷村を撮影し、写真集刊行、日本写真協会賞を受賞しています。その後、1972年から沖縄、宮古島を撮りはじめたようです。
もろさわようこさんは、1925年長崎県出身の女性史研究家で、「生家が没落し、女中奉公をしながら小学校を卒業、旧制専門学校入学者検定合格。陸軍士官学校の事務員、地方紙記者などを経て、女性史研究家となり、庶民世界での近代女性史に関する著書多数、女性解放運動に力を注ぐ。1969年、『信濃のおんな』で毎日出版文化賞受賞。」(wikipediaより)

お二人とも当時の女性としてはものすごく先進的で、才気溢れる生き方だと思います。内地では、女性の生き方が大きく変わる時期だったかもしれません。一方、1970~80年代の宮古島の祭祀は、まだタブーが厳しく女性といえども他所からきた人間を拒絶することも多くあったそうです。そのような状況下で、ヤマトからきた「まれびとさながら」な二人の女性が、宮古島の女性が司る祭祀空間に赴き、島のオバァ達と対話する。なんてエキサイティングなのでしょう!そこで生まれる驚きや葛藤、まなざしと考察が、上井さんの写真ともろさわさんの文章で真に迫って表現されています。特に、島のおばぁが「性」を語るくだりとか、深いなぁ。ときにジェンダーやフェミニズムの視座から、ときに戦争や近代化の歴史的側面から、同じ女性として、違う人間として、真摯に向き合う姿はとても感動的で美しいのです。

本書の追記に、2011年秋に上井さんの訃報を知った際のエピソードがあります。上井さんの身寄りの方からもろさわさんに電話があり、遺品整理で写真フィルムが箪笥いっぱいに残されていて、処分について相談したいとのことだったそうです。その時、もろさわさんがとっさに言った言葉は、「ああ!それ、幸子さんのいのちです」。
その後、写真家の比嘉豊光さんら多くの人の協力のもと、本書が出版されたことに、敬意と感謝の念が堪えません。本書解説では、今年93歳を迎えたもろさわさんが、2013年に赴いた那覇での辺野古基地問題の女性集会のことから書き始めています。当時を懐かしむのみならず、現代の私たちと繋がり続ける一冊です。

〔書籍データ〕
上井幸子写真集 太古の系譜 沖縄宮古島の祭祀
写真 / 上井幸子 文/もろさわようこ 写真編集/比嘉豊光
発行 / 六花出版
発売日 / 2018/5/15
ISBN / 978-4-86617-055-8

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