Vol.1 「しょうたつ(セイロンベンケイソウ)」 

atalas

2016年03月04日 12:00



【新連載】 「宮古島四季折々」
昨年10月にゲストライターとして金曜特集に登場し、「島の植物と暮らし~ススキ」を寄せてくれた、みゃーくふつメールマガジン「くまからかまから」を主催されている松谷初美さんが、今月から新連載(第一金曜日)の「宮古島四季折々」を担当していただけることとなりました。
「宮古島四季折々」では、南国宮古島にある《四季》をなにげない暮らしの中の風景を通して、宮古口を織り交ぜて優しく綴る、とっても素敵なものがたりです。


 ナフサ道をてくてくとおじいの実家(屋号を「すまっちゃー」と言う)まで10分ほど歩いて行く。
きょうは、ジュウルクニツ(十六日祭)。あの世のお正月だ。
すまっちゃーの北側にある、ぬー(野)に親戚が集まり、祝うのだ。
ぬーには、緑がいっぱいで、春の匂いがする。
ご馳走を詰めたお重、かびじん(紙のお金)、黒いお香、酒、水、洗い米など・・・・・・。
大人がジュウルクニツの準備をする間、子どもたちはそこら中かけ回っている。
ご馳走が食べられるのだ。うれしくて仕方がない。
「んにゃ てぃーゆ かみる(ほら、手を合わせて)」と、おじさんの声を合図に
皆、かがんでご先祖様に手を合わせる。
そして、みんなで座ってご馳走を食べる。さながら春のピクニック。
そのそばに「しょうたつ」は、茎をスクッと伸ばし、風に揺れていた。

 これは私が4歳か5歳の頃のジュウルクニツの風景。
ジュウルクニツの一番古い記憶として何十年たった今も、この季節になると思い出す。

 しょうたつは、和名をセイロンベンケイソウと言い、葉から芽がでることから、「ハカラメ」とも言われる。
また、マザーリーフ(たくさんの芽(子ども)を出すことから)という名前もあるようだ。
2月から4月頃まで、風船のようなガクをいっぱいつけているしょうたつが道端や畑の隅っこなどに見られる。
なんともかわいらしい。

 風船そのものが花かと思っていたら、その先に花が咲く。
花が咲かない前の、風船のようなガクを指でつまむと、ポンと音がして弾ける。
他のガクも次々とつまみ、ポンポンと鳴らす。子どもの頃は、これが楽しかった。
しょうたつを見つけるとすぐそれをやるので、花が咲くのを見たことがなかったのかもしれない。

 旧暦の一月十六日に祝うあの世のお正月。その年によって2月だったり、3月だったりする。
(2016年のジュウルクニツは2月23日だった)東京に住んでいた頃は、ジュウルクニツに帰省することはあまりなかったので、しょうたつを久しく見ていなかった。
10年くらい前に、久しぶりに見た時は、先のやらびぱだ(子どもの頃)のジュウルクニツの風景が一気に蘇った。
しょうたつとジュウルクニツは私の中でセットになって記憶されていたようだ。

 今年もしょうたつを2月上旬に見つけ、ジュウルクニツが間もなくやってくることを実感。
花瓶などにどーんと活けて家の中でも楽しんでいる。昔はしょうたつを活けるという発想はみじんもなかったけれど、今は、宮古の植物がとても愛(かな)す愛す。
とくにその時季その時季のものは、季節を教えてくれるだけでなく、自分の役割を知り、自分を生きるということも教えてくれているような気がする。

 暖冬と思っていた今年の冬は、突然、ぴしーぴしの(寒い)冬になったが、春はもうすぐそこまで来ている。
松谷 初美(まつたに はつみ)
1960年生 下地高千穂出身
2001年より、宮古島方言マガジン「くまから・かまから」主宰
30年住んでいた東京から昨年Uターン。現在下地に住んでいる。
毎日が新鮮。宮古の魅力を再発見中。

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