2本目 「人魚に会える日」

atalas

2018年12月07日 12:00



島の本棚別館 「シネマ de ミャーク」第2回目にご紹介するのは、仲村颯悟(なかむらりゅうご)監督作品「人魚に会える日」

一昨年の暮れ、アメリカ留学中だった息子から1枚の写真がラインで送られてきた。
「お父さん、この人知ってる?」我が息子といっしょに写っていたのは仲村颯悟監督! たまたま留学中だった仲村監督が、お互いの友人を介して知り合ったという。並々ならぬご縁を感じた。

というのも、10年ほど前の夏休み、例年のように宮古島で夏を過ごしていた我が家族が、ちょっと来間島へ行って帰る時に来間大橋を猛ダッシュで走る子供たちに遭遇。「何やってるんだろうね?」と話していたのだが、それが「島の時間(2009年作品)」の撮影現場だったのだ。まだ「ヤギの冒険」で一躍有名になる前の話である。

そう、仲村颯悟監督と言えば、13歳の時に撮った「やぎの冒険」が各国の国際映画祭でも上映され話題になった天才少年監督なのだ。その仲村颯悟監督が満を持して、実に5年ぶりに撮ったのが、この「人魚に会える日。」だ。

まず映画としての間口は広い。キャストに「琉神マブヤー」「ハルサーエイカー」「ゆがふぅふぅ」などでおなじみの知念臣悟、山城智二、仲座健太、津波信一、アイモコ、そして川満しぇんしぇー、Coccoまで、まさに沖縄オールスターズとも言うべきラインナップが勢ぞろい。出だしこそ、このメンバーの軽快なトークで始まるが、内容は決して軽くない。

基地移設に揺れる架空の町「辺野座」。ジュゴンを見つけに辺野座を訪れ行方不明になった少年。その少年を探しに辺野座に来た少女ユメは謎の女性(Cocco)に出会う。また「基地の島、沖縄」という特集記事の取材で辺野座を訪れた知念臣悟、山城智二、仲座健太の3人は「ヌチクイムン」と書かれた謎のファイルを見つける。それはこの地に代々伝わる生贄の儀式についてのファイルだった!

仲村監督はダーク・ファンタジーに包みながら、基地問題について真正面から問いかける。
「基地について真剣に考えたことある?」
そして視点の違う意見をストレートに投げかける。
「海を壊して新しい基地を作るくらいなら、今のままでいい」
「大学にヘリが落ちた。基地が近くにあるから、こうなっているんだよ」
「こうやって飛行機の音聞いて、戦争を経験したおばあも怖がってると思うわけ」
「基地があることに反対なのか、移設することに反対なのか、意味わからんわけ。しかも、ほぼナイチャーだし」

どっちが正しいの?

「わからん」

そして「ヌチクイムン」に纏わるダークファンタジー部分も奥が深い。
「自然を壊すなら何かを生贄に捧げなければならない」
「ジュゴンは神の使い」
「誰かが苦しまなきゃ、犠牲にならなきゃいけないんだ」
「もう、なってるでしょ。この島が生贄に」

エヴァンゲリヲンで「死海文書」やら「人類補完計画」などが気になった人はきっとハマる。回収されずに散りばめられた謎の数々は、見終わった後に「ねえ、あれってどう思う?」と友だちと話したくなること請け合いだ。

いつもは楽しい川満しぇんしぇーが不気味。「もう放っておいてくださいね。もう疲れたんです」という台詞が意味深で怖い。
小ネタ的には、あるカットに「パニパニシネマ」の前身「シネマパニック宮古島」のロゴの入ったタオルが出てたり、ヤーズミ(ヤモリ)の声がさりげなく入っているのが良い。たったこれだけで沖縄の空気がリアルになる。これは監督があえてSEで入れたそうだ。

私は渋谷で行われたこの作品の初日舞台挨拶を取材させてもらったのだが、その日のゲストが今は亡き樹木希林さん。この映画の封切当時の2015年、樹木希林さんがお住まいになっていた東京の恵比寿の地所が、実は琉球王朝最後の末裔の屋敷跡だったのだそうだ。希林さんは沖縄との不思議なご縁を感じるとおっしゃっていた。

基地問題をダークファンタジーという形で、エンタメとしても見れるようにした上で、多様な考えを偏見を入れずに並列し、まず「考える」ことの重要性を突きつけてくる。笑いと気持ち悪さの融合とか、デヴィッド・リンチみたいなこと、普通若干20歳でできません。

未見の方はぜひ、天才仲村颯悟からのメッセージを見てみてほしい。

【作品データ】
「人魚に会える日」
公開 2015年
監督、仲村颯悟
https://www.ningyoniaeruhi.com/

※現在仲村監督は、学校での「平和教育」を目的とした上映会に限り、本作を無償で貸し出してくださるそうです。中学校・高校の先生方には「考える」きっかけとしてオススメいたします。


【シネマ de ミャーク】
1本目 「ホテル・ハイビスカス」(2018年11月09日)
久保喜広、1960年生まれ
東京在住ながら20年以上毎夏宮古に通う。宮古移住が夢。
2012、2013年、ぴあフィルムフェスティバル審査員
2013年、日本アカデミー賞特別会員
2014年、東京国際映画祭WOWOW賞審査員
以降、映画祭での審査員、シネマコメンテーターとして活動

関連記事